マーケティング活動の意義は「顧客について考える」こと

マーケティング活動の意義は「顧客について考える」こと

 以前、このブログでもお知らせしていましたが、2月18日に本庄早稲田国際リサーチパークにて、「売上UPのためのマーケティング研修」を開催いたしました。おかげさまで、定員30名の方にお集まりいただき、1日かけてマーケティングについて学んで頂きました。

マーケティングのプロセス

 私がマーケティングのお話をするときにベースにしているのは、フィリップ・コトラー氏が提唱したとされる、「STP+4P分析」という考え方で、日本でも比較的ポピュラーと言える方法です。「STP+4P分析」は、以下のような手順を踏んで進んでいくとされます。

マーケティングの手順の例
https://globis.jp/article/1593

①環境分析

 まず、自社の商品/サービスを取り巻く環境を分析します。環境を「市場(顧客):Customer」「競合:Competitor」の外部環境と、内部環境である「自社(Company)」について分析するもので、3つの要素の英語の頭文字をとって「3C分析」と呼ばれる分析や、企業を取り巻くマクロ環境を分析するPEST分析(Politics,Economy,Society,Techonoolgyの動向を分析する)や、自社が属する業界の構造によって生まれる競争要因(条件)に注目したファイブ・フォース分析などが用いられます。私は、3C分析をご紹介することが多いです。3つの要素で考えるのが、比較的取り組みやすいように私自身が感じているからです。環境分析を通じて「自社の持っている強み/弱みは何か?」「外部環境における今後のチャンス(機会)/ピンチの種(脅威)は何か?」「どんなライバル以外がいて、どれくらい強いのか?」 など、戦略のベースとなる事実の抽出を行います。また、必要に応じて各種調査(顧客のヒアリングや市場データの収集など)を行い、情報を集めます。

②Segmentation(市場細分化)/③Targeting(ターゲッティング)

 ①の環境分析を踏まえつつ、自社の商品/サービスがビジネスを行う市場の細分化を行います。細分化については、比較的親しみがあると思われるのは「●代女性」といったものかと思いますが、そのような「人口動態」に関わるもの以外にも、色々な切り口があります。

セグメンテーションの変数例
https://product-senses.mazrica.com/senseslab/tips/segmentation-marketing-strategy

 ②で細分化した市場の中で、自社の強みが生きそうな領域を見つけ、自社がメインで狙う顧客層を設定する、「誰をお客さんにするのかを決める」のがターゲッティングです。なお、マーケティングのテキストでは、市場細分化とターゲッティングは別ステップとして紹介されていることが多いですが、「自社の強みが生きそうな領域が表現できる市場の細分化の方法を見つける」という形、つまりSとTは同時に行う方が、実務のイメージには近い場合も少なくないと思います。そして、ターゲットとする顧客像について、仮説と調査を積み重ねて明確にしていきます。

④Positioning(ポジショニング)

 商品/サービスを展開するうえではほぼ間違いなく「ライバル」がいるので、ライバルに対してどのように差別化するか、どんな特長で自社のことを覚えてもらうかを決めます。自社がライバルに勝てる2つの軸(切り口)を見つける作業になります。

⑤目標を設定する

 このあと、設定したターゲット顧客が、検討したポジショニングで自社の商品/サービスについて知ってもらい、購入してもらえるようにするための具体的な打ち手、施策を4つのPの切り口で検討していくわけですが、その前に、施策を打つことで達成したい目標を立てます。目標によって、適切な打ち手や優先順位が変わってくるからです。

⑥具体的な打ち手を決める

 4P戦略については、以前のブログで紹介していますので、参照して頂ければと思います。

 以上が一連の流れになりますが、この分析は、環境分析→S・T→P→4Pのようにただ一方向に進んでいくわけではなく、それぞれの分析からの気づきを並べて、行きつ戻りつ検討していくプロセスを取るものであると思います。

「STP+4P分析」には手間と労力はかかることを覚悟する

 ところで、STP+4P分析については、様々な評価があり、必ずしもポジティブな評価ばかりではないように思います。代表的な批判としては、例えば「煩雑すぎて実行できない」という声があります。特に人手の少ない中小企業においては、この手順を1つ1つ踏んで答えを導いていくことは煩雑である、というものです。

 これに関しては、何のためのマーケティングを行いたいのか、というそもそもに立ち返ることが重要だと思います。マーケティングを行う目的は、「売れるしくみを作ること」にあります。つまり、都度顧客のところまで行って一生懸命売り込みをしなくても、商品やサービスが顧客に理解され、購入されるしくみをつくることです。そのような理想的な状態を作るためには、多少頑張って、無理をして、煩雑なことも対応するべきだと思いますし、それだけの価値があるものだと思います。全社会議をしてもいいでしょうし、社長直轄のプロジェクトを作って取り組んでもいいでしょう。

 もちろん中小企業においては、そのような人材がいない、という現実もあるでしょうが、それであれば、経営者が先頭に立って自らやるべきです。リソースが少ない中小企業が「ジャンプ」するために、必要なアクションだと思います。

中小企業は「良いプロダクトアウト」を目指そう

 私が会社員時代、企画部門にいる頃よく聞いた言葉に「プロダクトアウトはダメ、マーケットインであるべき」というものがありました。「プロダクトアウト」とは、自社の技術でできることで商品を企画してしまうことで、お客様のニーズからスタートしていない、という意味で使われていました。逆に、お客様のニーズからスタートするのが「マーケットイン」というわけです。では、「プロダクトアウト」な商品企画、商品開発は常にダメなのか、というと、そんなことはないと思います。

 延岡健太郎『製品開発の知識』(日本経済新聞出版社、2002年)では、他社にまねされないような自社の強み技術(コア技術)の分野に集中して、長期間にわたり多様な製品を開発・展開するコア技術戦略を「良い意味でのプロダクトアウト戦略」と呼んでいます。マーケットイン戦略であれプロダクトアウト戦略であれ、「競合企業に対して優位ある技術(コア技術)を使いながら、顧客ニーズに合致した製品を開発すること」が達成できれば良い。そうすると、まねをされない技術とは、通常時間を掛けて優位性を積み上げてきた技術なので、顧客のニーズに合わせたまねされない技術を考えるマーケットイン戦略は非常に難しくなるので、プロダクトアウト戦略も容易ではないがより可能性は高い、としています。

マーケットイン戦略とプロダクトアウト戦略
延岡健太郎『製品開発の知識』 より

 中小企業においても、他に真似できない強みの技術があるならば、その技術をどの分野のどんなニーズに適合できるか、ということを考える、考えつくすことで、新しい事業可能性を見出せるかもしれません。もしそのような技術がないのであれば、短期的には一連のマーケティング活動の中で「市場のすき間(ニッチ)」を探して、自社の事業機会が得られる場所を探すことになりますが、やはり中長期では、他に真似ができないような強みを培った行くことが必要になるのだと思います。特に、具体的なマーケティング戦略において、中小企業が投入できる経営資源は限られているので、いかに絞り込まれたターゲットに、他にはない差別化要素を持って価値を提供できるか、一生懸命頭を捻って考えることが重要だと思います。

 そして、商品やサービスを新たに生み出そうとするとき、どうしても「自社できること」で仕様まとめをしてしまいがちですが、「STP+4P分析」において、「市場について考察する」「そこから自社が顧客にしたい層を見出して、顧客について考える」というプロセスがあることが、何よりも重要だと思っています。


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