「小さくはじめるD2C」は基本を大切に

「小さくはじめるD2C」は基本を大切に

先日、ある地方産業の経営者や行政関係者に向けて、「D2C(Direct To Consumer)」に関する講演をさせて頂きました。D2Cについては、以前このブログでも紹介していますが、企画開発した製品を販売するためのECサイトの立ち上げから顧客への情報発信、広告、マーケティング、購入まで全てがデジタルで完結し、生産者(メーカー)と消費者を直接つなぐビジネスモデルです。日本国内では、1つのメーカーが、他社を介さずに自社ECサイトなどを通じて消費者へ直接販売するというモデル以外に、「食べチョク」や「ファクトリエ」のような生産者が利用できるプラットフォームを構築し、多くの生産者が販売するサイトを運営する企業が存在するモデルも成長しています。

ブランドマネジメントとD2C

この日の講義では、D2Cモデルの採用が「ブランドマネジメント」を推進するための有効なツールであるという観点でD2Cモデルを紹介しました。ブランドマネジメントとは、ブランドと顧客とのすべての接点(タッチポイント:商品、パッケージ、店舗、広告、広報、接客、…)において、顧客が感じるブランド像、印象が一貫したものとして伝わるようにすることです。D2Cモデルでは、顧客への情報発信、広告、マーケティング、購入という一連の流れを自社で完結することで「一貫性」をもつことができます。また、この流れがデジタルで完結することで一貫性が「見える化」されます。

また、ブランドマネジメントでは、消費者に正しくブランドの姿やメッセージが伝わっているかを把握し、必要があれば改善を加えていく必要があります。顧客とのコミュニケーションを重視し、顧客の声やニーズを商品やサービス作りに反映させることを重視するD2Cモデルは、この点でもブランドマネジメントに有効な考え方といえるのです。

ネット通販支援サービスが成長している

さて、1月25日付の日本経済新聞電子版では、企業や個人のネット通販を支援するサービスが増えていることが紹介されています。ECサイトにはモール型(Amazon、楽天市場のように複数の事業者が出店するサイト)と自社サイト(事業者ごとに独自サイトを持つ)があり、集客面で有利なモール型の成長が大きかったものの、コロナ禍以降にEC販売に活路を求める事業者では、D2Cの流れも追い風になって、SNSを活用して顧客と接点を持ちながら、自社サイトで販売することを選択するケースが増えているとしています。

また、EC関連企業で上場する企業も相次いでいます。サービスや料金体系、得意な顧客層は企業ごとに異なっており、個人事業主や小規模企業に支持されている企業としては「BASE」が紹介されています。BASEは、機能やデザインを選ぶだけでサイトが作れる簡易さが支持されています。ショップを作成すること自体は無料で、売上に応じて決済手数料を含む6.6%を出店者が負担します。BASEは2019年10月に上場していますが、現在の時価総額は2900億円で、1年で上場時の11倍強となっています。

EC関連企業の上場
日本経済新聞電子版2021年1月25日付

D2Cビジネスを採用したい事業者へのサービス

ただし、単純にEC販売すればD2Cモデルが実現できる、ということではありません。購入に至る前、購入に至った後で、デジタルで顧客が参加できるコミュニティを作ってコミュニケーションし、顧客のニーズや要望を商品/サービスづくりに生かせる仕組みを持つ必要があります。

NRIデジタル株式会社は、企業のD2Cビジネスをワンストップで支援するサービス「D2C OnBoard」(ディーツーシー・オンボード)を1月27日にリリースしています(https://www.nri-digital.jp/news/20210127-3881/)。グローバルで多数の実績がある6つのSaaS/PaaS製品(Shopify、KARTE、Google Cloud™、HubSpot、New Relic、trocco®)を適宜組み合わせて、必要な設定をしたウェブサイトとして一体的に提供するもので、EC(電子商取引)サービスだけでなく、デジタルマーケティング、データアナリティクスのための機能も備えており、短期間(1カ月〜3カ月)・低コストでビジネスを立ち上げることができる、とNRIデジタル社のニュースリリースにあります。

「D2C OnBoard」で提供する主な機能
NRIデジタル(株)プレスリリースより

小さくはじめるD2C

報道では「D2C OnBoard」の価格は700万円からとあり、(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ273S90X20C21A1000000/)中堅企業や大企業の利用を想定しているものと思われます。それでも、「デジタルマーケティング」「EC販売」「ECサイトアクセス分析」「顧客管理/コンテンツ管理」といった活動については、ビジネスの規模問わず最低限意識し実行していく必要があるでしょう。

・「デジタルマーケティング」については、SNSやメール等を活用して地道にブランド認知の拡大を図ったり、費用を掛けてWeb広告を投入しECサイトへの集客を図る、といった打ち手を実行していきます。

・販売チャネルである「ECサイト」については、ターゲットとなる顧客像を明確にし、ターゲット顧客に支持されるデザイン、ユーザーインターフェース、商品ラインナップの整備などを図る必要があります。また、顧客からの声を受け取ることができ、顧客に返信できる、コミュニケーション機能を用意します。

・ECサイトの「アクセス分析」を行い、ターゲット顧客をきちんと集客できているかを常時計測し、狙い通りでない場合には改善のための策を打ってその効果を見る、というトライ&エラーを重ねていきます。

・顧客になってくれた消費者との関係を1度切りの購入で終わらせることなく、リピーター、ファン化させるため、「顧客管理」に基づいて適切にアプローチしていきます。また、顧客との関係性を保つコミュニティに話題を投入し、顧客へのブランド浸透につながる「コンテンツ管理」を実施していきます。

こうした活動は、顧客志向のビジネスを進めるうえでの基本的な活動と言えますが、きちんと行うには相応のコスト(費用、工数)が掛かり、特に小規模事業者にはハードルの高い活動でした。しかし、クラウドでの多様なサービス提供やSNSの普及で、より手軽に、低コストで運用できるようになっています。

D2Cブランドのための製造プラットフォーム

また、商品を販売するブランドを持つ上で必要な製造の機能を提供するスタートアップ企業もあります。FUN UP(https://fun-up.jp/)が運営するものづくりマーケット「monomy」は、3000種類以上のアクセサリーパーツを組み合わせて、自分オリジナルのブランドアクセサリーをデザインし、アプリ上で販売することができるアプリです。注文されると、パーツを生産する提携工場から職人が製作し、購入者へ発送されます。プロのデザイナー、アーティストでなくても、自分の好きなデザインの商品を販売できます。

monomyの受注から発送までのフロー
https://monthly-pitch.com/2019/07/monomy/

そして、このmonomyが持つ製造機能を活用して作ったアイテムを、他のCtoCマーケットで売れるようにするD2C支援もスタートしています。例えば、monomyとBASEが連携して、「monomyで作った商品をBASEで売る」ことができるようになっています(https://lp.thebase.in/monomy/

製造機能を自社で持たないビジネスモデルである「ファブレス」モデルは以前からある形ですが、monomyは、特定の少数の工場に製造を委託するのではなく、多数の工場に部品製造を委託することでパーツにバリエーションを持たせ、アクセサリー製造のプラットフォームとしての機能を持つことが可能になっています。

FUN UPでは今後、アクセサリー以外のアイテムでも同様のプラットフォームを構築していく意向であるといい、展開が楽しみです。

※FUN UPに関する情報は https://monthly-pitch.com/2019/07/monomy/ を参照しています

D2Cの導入をビジネスプロセス見直しの好機に

このようにD2Cにまつわるサービスを見ていくと、D2Cモデルの採用を検討することは、ビジネスプロセスをどのように構築するかを検討することであり、すでにビジネスを行っている事業者にとっては、既存のビジネスプロセスを見直し、再構築することになります。投入できる経営資源(担当者、設備・ソフトウェア、費用等)に応じて、より効果的なプロセスを検討し、実行していくことになります。外部で提供されているサービスも有効に活用しながら、自社の得意なことにできるだけ集中し、強みを伸ばせるビジネスプロセスを構築することが望まれます。

さて、冒頭に紹介した講義では、最後にD2Cモデルを採用する上で

「顧客やコミュニティの参加者と真摯に対峙し、コミュニケーションを積極的に行う覚悟」
「『短期的な売上』に拘ることなく顧客やコミュニティとの「長期的な関係」を構築していく覚悟」
「『売って終わり』ではなく、購入者のライフスタイルにポジティブな変化を与えるまで寄り添い続ける覚悟」

が必要となることをお話したのですが、すでに事業を営んでいる方に対してはこれらの覚悟を包括するものとして、「既存のビジネスのやり方を見直し、新しいやり方に挑戦する覚悟」を付け加えたいと思います。自社のビジネスを見直す好機として捉え、取り組みたいものです。


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