【セミナー聴講録】「マーケター思考 vs デザイナー思考」

【セミナー聴講録】「マーケター思考 vs デザイナー思考」

 10月9日、東京ビッグサイトの「日経 xTECH EXPO 2019」に行ってきました。目的は、「実況ライブ! マーケティングの鉄人」というセミナーを聴講するためです。その内容は、以下、イベントホームページより抜粋。

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スゴ腕マーケターが目の前でマーケティングの課題を料理する画期的ライブイベント「実況ライブ! マーケティングの鉄人」。今回は「マーケター思考vsデザイナー思考」と題し、P&Gや資生堂で活躍したプロマーケター音部大輔氏とデザインイノベーションファームTakram代表の田川欣哉氏を迎える。果たして、マーケターとデザイナーは同じ課題にどのようなアプローチで挑むのか。立会人はプロマーケター富永朋信氏(プリファード・ネットワークス執行役員CMO)。

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 P&G出身の音部氏は、いわゆる「P&Gマフィア」(P&G出身で活躍しているマーケッター)の筆頭に数えられる方だそうです。P&Gといえば、“Consumer is Boss”という企業理念で知られ、マーケティングの秀逸さで知られます。Takramの田川氏は、最近ではメルカリのロゴのリデザインが話題になりましたが、Sansanの名刺管理サービス「Eight」の開発などでも知られています。今回のテーマは、アプリを使った資産形成サービス(実在のサービス)のユーザーを「5年間で1000万人」にする、というものでした。

違いは思考のプロセス

このテーマに対して、音部氏は「5年間で1000万人」という目標をブレイクダウンして、年間これだけ増やすためには、、、というところを起点に検討を進めていました。そして、

①「ユーザーが1年に1人新しいユーザーを連れてくる(紹介する)」ことができれば目標達成が可能と逆算。

②「どうしたらユーザーは友達や家族に話したくなるか」のかを考え、「話したく、薦めたくなるサービス」「人と人の間をつなぐようなサービス」のブランドステイトメント(目的、ターゲット、ベネフィット、機能)を設定。音部氏は、「商品、サービスのイメージ全部をメタ化する」と表現していました。

③人と人をつなぐという狙いから、「やさしくハードル低くうながし手伝う(保育園の)先生」サービスの「人格」(トーン&マナー)を設定。

というプロセスを提案していました。

 一方、田川氏は、有料アプリサービスで1000万人のユーザーを獲得するのはかなりハードルの高い目標であるという前提に立って、

①ユーザーターゲットを子ども(0歳以上)にまで広げること

②トリガーを多様化すること⇒「息するように投資する」ことができるよう、あらゆる手段が投資につながるプロダクト設計

③UXを改善し、ボトルネックを解消すること⇒有料会員に誘導するための無料アカウントの新設を行って投資シミュレーション体験をさせること(普及のための「中階段」の設定)、子どもでも使えるようなUIの改善(←これによって大人のハードルも下がる)

というプロセスを提案していました。

 両者の違いは、マーケッターである音部氏が、どうすればベネフィットが伝播してユーザーが拡大できるか、という視点からプロダクトを設計しようとしているのに対し、デザイナーである田川氏は、ユーザーに障害を越えさせる、ユーザーを脱落させないプロダクトの設計からアプローチしている点にありました。

プロセスは違っても本質的な共通点がある

 ただ、終了後に音部氏が言っていましたが、「マーケター思考 vs デザイナー思考」というタイトルではあるものの、両者の違いだけでなく、共通するところにも学ぶべきところはあったように思います。

・テーマが「有料アプリユーザー1000万人」というスケールの大きなものであったこともあり、「目標のブレイクダウン」「中階段の設定」を行っていたこと。

・「誰をターゲットにして、ユーザーがどんな体験をして、どんなベネフィットが得られればいいのか」について、深く考えていたこと。

・ 音部氏の「保育園の先生みたいなサービスの人格」、田川氏の「息するように投資する」のような。、聞き手(実務ではクライアント)の中で可視化され、印象に残るような言葉のチョイス。

 ちなみに、この日使われていたデザイナー思考という言葉は、「デザイン思考は、デザイナーの思考をデザインについて考え方を表しているわけではない」というデザイナーの声を元に基づいているそうですが、この日披露された2人の提案は、多くの企業において「マーケッター」「デザイナー」がカバーする領域をはるかに超えるものでした。

瞬発力を身につけるには?

 終了後、会場の聴講者から「なぜこんな短時間でプレゼンができるくらいまで考えられるのか?」という質問があり、音部氏からは「自分たちの中に思考する際のフレームワークがあって、事前ヒアリングでは、仮説を選ぶための質問をしている」との回答がありました。ここで言う「フレームワーク」は、ビジネス書などに載っているツール(SWOT分析や3C分析みたいなもの)ではなく、いわば「思考の型」というべきものかと思います。また、そもそも実務の場では、こんなに短時間で解を出すことはない、とも。日々の業務の中で、少しずつ自分なりの「思考の型」を作り上げていくことが大切なのだと思います。もちろん、その過程でツールとしてのフレームワークを活用することが有効なこともあるでしょう。

 ちなみに、だいぶレベルが違いますが、私にも瞬発的に回答をしなければならない機会があります。ビジネスコンテストの類で審査員としてコメントする時や、以前のセミナーの受講生やコンサルティングの顧客の方に、近況報告と合わせて相談事をもらうことがあり、その場で答えを捻りだして何かアドバイスをする時です。顔は笑っていても、心は焦ってることもあります(笑)。こういう機会への瞬発力も、これまでの経験や学習の積み重ねによって、応用できる検討プロセスや参考になる事例を知っていることがものを言うので、日々の鍛錬の必要性を感じる瞬間です。


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