【セミナー報告】デザインマネジメントの実践

【セミナー報告】デザインマネジメントの実践

 1月15日、一般社団法人埼玉県経営者協会の主催する「デザインマネジメント3DAYSステップセミナー」の第3回が開催されました。これまで「知識編」「感性編」と題して行ってきた2回に続く今回は「導入編」として、私が講師を務めました。「デザインマネジメントの組織へ導入を体感する」ことをテーマとしました。

「デザイン思考」のエッセンス

 我々VALUE LABOがデザインマネジメントの活動を進めるうえで、ベースとする考え方は「デザイン思考」であると考えていますので、まずは改めて「デザイン思考」についての紹介から始めました。

 スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所(通称d.school)のガイドブックには、「デザイン思考における7つの心構え」が紹介されています。

一般社団法人デザイン思考研究所編集「デザイン思考のポケット・ガイド」より 編集
https://designthinking.eireneuniversity.org/index.php?pocket

 「デザイン思考」というと、イノベーションや問題解決の方法を生み出す「ツール」のように思われているケースもあるようですが、本質はここに挙げられているような「心構え(mindset)」であり、「態度(attitude)」であると考えられます。これらは、人間中心で物事を観察したり、制約にとらわれずに自由に発想を広げるために求められる心構えや態度を示しており、イノベーションを生み出す活動において、常に前提となるべきものです。

「ダブルダイヤモンドモデル」で「問題発見→問題解決」

 デザイン思考を実践するためのプロセスは日々開発されており、前回のブログではスタンフォード大学d.school による5ステップでの実践を紹介しましたが、今回のセミナーでは、2005年にイギリス政府のデザイン振興機関・デザインカウンシルが提唱した「ダブルダイヤモンドモデル」について紹介しました。

デザインカウンシル「ダブルダイヤモンドモデル」

 VALUE LABOでは、このダブルダイヤモンドモデルをベースにプロジェクト推進の計画を立て、実行を進めていますが、このモデルを採用している理由は、ビジネス思考の2つの特長をわかりやすく体現していると考えているからです。1つは、デザイン思考がまず人間中心のユーザー観察で「問題を見つける」ことからはじめることです。モデルにおける2個のダイヤモンドは、それぞれ「問題発見」と「問題解決」のフェーズを示しています。もう1つは、それぞれのダイヤモンドで「拡散と収束」の作業を行うことです。問題発見のためのユーザー観察は、ユーザーへの「共感」が得られるまで深く、広く行います。また、問題解決のためのアイデア創出は、多様なメンバーによるブレインストーミングで「数より量」「他人のアイデアを評価して、さらにアイデアを付加する」といった態度で臨みます。アイデアは「プロトタイプ」として形にしてブラッシュアップする、という作業を繰り返します。このような拡散の作業あとに、そこからフォーカスする課題を選ぶ、実際の解決策を選ぶ収束の作業を行います。 図表の通り、ダブルダイヤモンドモデルでは活動を「問題」「定義」「開発」「提供」を4ステップとしており、それぞれの活動内容について紹介しました。

 また、デザインマネジメントを導入する上での現状把握の手段として、このブログでも依然紹介している「デザインラダー」についても紹介しました。

「ビジョン策定」から始めるデザインマネジメント

 セミナーの後半では、「ビジョン策定」をテーマに取り上げました。ビジョンの策定は、デザインマネジメントが浸透する組織を作るための組織デザインの第1歩として位置づけられる活動となるためです。

 まず、経営理念・ビジョンの意義、経営戦略との関係などを紹介しました。経営理念は、企業の存在意義や使命を普遍的な形で表した基本的価値観です。ビジョンは、経営理念で規定された経営姿勢や存在意義に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」と考える到達点、つまり自社が目指す中期的なイメージを示すものです。そして、こうした経営理念・ビジョンを達成するために、経営戦略(全体戦略以下)を立案し、実行します。

GLOBIS 知見録
「経営理念と戦略レベル~『グロービスMBAマネジメント・ブック』 」より
https://globis.jp/article/2122

 次に、ビジョン経営を実践している企業事例として、「中川政七商店」と「サイボウズ」をご紹介しました。中川政七商店は、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンの元、工芸製品の製造小売業(SPAモデル)を手掛けるほか、全国各地の工芸産業のコンサルティングを行っています。また、サイボウズは、東証マザーズ上場後離職率が28%まで悪化したことを受けて「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念を掲げ、上場後にM&Aした企業のうち、企業理念に関係しない企業(グループウェアに関係しない企業)を売却するなど、企業理念に沿った経営へと方向転換を図っています。両社とも、理念・ビジョンが明確になっていることで、従業員の自主性やチャレンジが促進されているといいます。

 最後に、現状の組織において経営理念・ビジョンは浸透しているか、その要因は何なのかについて、参加者の皆様にグループディスカッションをして頂きました。実は、前回のセミナー終了後にアンケートを取ったところ、参加者の約半数が「経営理念・ビジョンがあり、組織に浸透している(または、まずまず浸透している)」と答えていたため、参加者同士で成功のポイントを共有し、改善に向けたディスカッションをしていただきました。

デザインマネジメントを普及させていくために

 講義終了後も複数ご質問を頂き、参加者の皆さんの意識の高さを認識いたしました。一方、質問やアンケートの中でも「デザイン」の定義に関する質問、疑問が寄せられており、説明する自分自身の力量不足も感じましたし、もっと理解を深められるよう、伝え方のブラッシュアップを進めていきたいと思いました。

 一昨年の「デザイン経営宣言」以降、デザインを経営にどのように活用していくか、その関心は高まり続けていると思います。一方で、どのように実践していくか、という情報提供(とくに公的なもの)は明らかに不足していると思いますので、VALUE LABOは「デザインマネジメントに関する情報発信や導入活動」を通じて、デザインを経営に活用したい企業に貢献していきます。


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