年末になると、来年度の経済政策、予算の内容についての報道が増えてきます。12月7日の日本経済新聞には、次のような記事がありました。来年4月から2年間、「オープンイノベーション促進税制」として、大企業が設立10年未満の非上場企業に1億円以上を出資したら、出資額の25%相当を所得金額から差し引いて税負担を軽くする優遇措置を設け、自社にない革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップとの協業によるイノベーションを起こしやすくする、というものです。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO53075900X01C19A2MM8000/
2019/12/07付 日本経済新聞 「スタートアップ出資、1億円以上で減税 大企業の投資促す」
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中小企業もオープンイノベーションのプレーヤーになれる
近年、「オープンイノベーション」という言葉をよく聞くようになりました。星野達也「オープンイノベーションの教科書」(ダイヤモンド社、2015年)では、オープンイノベーションとは「メーカーが自社のみでは解決できない研究開発上の課題に対して、既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し、それを自社の技術として取り込むことによって課題を解決する」と紹介されています。
さて、今回の記事でもう1つ注目したのは、「中小企業については1千万円以上の出資が対象になる」見込みであるということです。中小企業からの投資も対象になっており、より少ない出資額で対象になるのはとても良い制度デザインだと思います。大企業、スタートアップ企業だけでなく、大学や研究機関、そして中小企業もオープンイノベーションのプレーヤーになれます。そして、経営をデザインする上で「不足する経営資源をどのように調達するか」は非常に重要な課題です。保有する経営資源に限りがある中小企業にとって、オープンイノベーションで外部の資源(固有技術、製造能力、営業ネットワークなど)を活用して、自社の事業基盤を強化すること、事業領域を拡大することが期待されます。
中小企業がオープンイノベーションを活用するには?
中小企業がオープンイノベーションを活用しようとする場合、どうやって自社にはない経営資源を持っている協業相手を見つけるのか?という課題があります。これについて、米倉誠一郎・清水洋編「オープン・イノベーションのマネジメント」(有斐閣、2015年)では、「いかに探索するか」「いかに探索されるか」という視点で紹介されています。
「いかに探索するか」については、外部の知識を探索するための専任者を置くことが難しい中小企業では、そもそも外部知識の探索・活用を行うことは難しい、としつつ、実際に外部知識の探索・活用に成功した企業は、自社に足りない知識を明確にし、その知識を持っていると思われる業種、企業群がある程度分かっている企業であったといいます。また、大学や公的な中小企業支援団体といった仲介者による探索が自社による探索によりも有効性が高いとしています。具体的には、大学の研究室から声が掛かって大企業を含む研究開発プロジェクトに参加した事例や、川崎市で開催されている「知的財産交流会」の事例が紹介されています。ちなみに川崎市の知的財産交流会は、大企業に蓄積されながら活用されていない特許や技術等の知的財産を中小企業に移転することで、中小企業の新製品開発や新規事業創造を支援しようとする取り組みで、公的機関がマッチング調整はもちろん契約面でのアドバイスにまで踏み込んで関与することが特徴となっています。
川崎市HP 「大企業と中小企業の知的財産マッチング支援 」
「いかに探索されるか」については、大企業から研究開発のパートナーとして選ばれるやすくなるケースとして、「特定技術分野への集中戦略と特許戦略で大企業から検索されやすくなる」「ニッチ市場を極める(ニッチトップ企業になる)ことで、応用分野での提携につながる」ことが紹介されています。
自社と外部の経営資源を分析する目を鍛えよう
オープンイノベーションに関する機運が高まったことで、近年、大企業やベンチャー企業・中小企業が一堂に参加するマッチングイベント・交流会や、特定の技術や産業をテーマとした展示会・商談会が、公的機関、民間企業問わず様々な主体の主催で開催されています。そのようなイベントに積極的に参加して協業先を探索することはとても有効です。こうしたイベントに参加する際には、目的を明確にしてイベントを探索して選び、当日も参加することが大切です。
前述の通り、「外部知識の探索・活用に成功するには、自社に足りない知識を明確にしていること」が重要ですので、事前準備として、自社の経営資源の棚卸と、新しい取り組み(新規事業、新製品・サービス開発など)に必要な経営資源は何かを見極め、自社に足りない知識・経営資源を明確にすることが必要です。その上で、自社に足りない知識・経営資源を持っている企業や主体を見つけることを目的として参加するように努めましょう。
もっとも、そもそも外部の企業、特に業界の違う企業や規模の異なる企業の人とのコミュニケーションが最初からそのようにうまく行くとは限りません。また、相手の強みや技術力をきちんと見極めるには、技量としての「見る目」を鍛えることが求められます。事前準備をきちんと行って各種イベントに定期的に参加していくことで、そうした力を鍛えていくことが重要です。
参考までに、各種ビジネスイベントを検索できるサイト例を上げておきます。
●Peatix(イベント検索・チケット販売サイト…ビジネス関連のキーワードで検索できる)
●産学官の道しるべ(産学官連携に関するイベント紹介)
https://sangakukan.jst.go.jp/event/