夏休みの自由研究~思考を”ジャンプ”させる方法を学ぶ

夏休みの自由研究~思考を”ジャンプ”させる方法を学ぶ

 このブログでは、たびたび新しい商品・サービスの企画やコンセプトの創出に有効な思考法・手法について、経営学での研究なども含めて紹介しています。これは私が良質なコンセプトメイクを行うことについて、日頃から強い興味関心をもっているためです。

 中でも、アイデアやコンセプトは生み出したものを「ジャンプ」させることが重要だと考えており、これを実現する手法について特に強い問題意識をもって探索しています。ロジカルな思考やプロセスを踏んで生まれるアイデアやコンセプトは、往々にして、正しいかもしれないが、どこかつまらない、あまり面白くない、新しさを感じない、というものに陥りがちと感じるからです。

 そこで今回は、これまで読んできた書籍の中で、「ジャンプ」する手法について紹介している(と、私が勝手に理解している)ものをピックアップして紹介していきます。

はじめに~イノベーションの定義

 世の中にない新しいものを生み出す、と聞いて「イノベーション」という言葉を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。イノベーションを最初に体系的に説明したのは経済学者シュンペーターであり、「新しいものを生産する、あるいは既存のものを新しい方法で生産すること」と説明しました。

 ここでの「生産」は、「利用可能な物や力を結合すること」と説明されていることから、物や力を従来とは違うやり方で結合することであり、シュンペーターはイノベーションのことを「新結合」と呼んでいます(「経済発展の理論」1943年)。

 今回紹介する手法に関しても、すでにある何かと何かを組み合わせることで新しいアイデアを生み出す、というプロセスを踏んでいることが多いことを、改めて認識しました。

 また、「従来とは違うやり方で」結合するためには、今までのやり方を疑ってみたり、ちょっと変えてみたり、という発想が求められることになり、「当たり前を疑う」「バイアスを壊す」といった手順が出てくるのももっともだなと感じました。

アイデアやコンセプトをジャンプさせる手法・プロセス

 今回はプロセスのみを紹介するので、具体的な事例についてはぜひ、それぞれの書籍を当たって頂きたいと思います。(著者については敬称略)

1.「ゼロからつくるビジネスモデル」(井上達彦)

 早稲田大学商学学術院教授の井上先生は、国内のビジネスモデル研究の第一人者であり、ここで紹介するのもビジネスモデル構築におけるジャンプです。「ビジネスモデルのつくり方ガイドブック」として書かれたこの本では、ビジネスモデルの創造サイクルを「①分析②発想③試作④検証」で説明し、分析から発想に至る過程に「飛躍」が必要である、としています。

 そして、それぞれのサイクルに対応する専門性を①サイエンス②アート③デザイン④エンジニアリングとしています。②発想のフェーズにおいては、飛躍のためにアーティストのように思考を飛ばして抽象を描くことが必要である、としています。

 飛躍するための方法としては、「異国・異業種のビジネスを抽象化してビジネスモデルの型を理解し、自社のビジネスに適用すること(良い模倣)」「優れたビジネスモデルを反面教師として、逆転の発想から価値提案すること」「自社や顧客、従業員の当たり前を疑うこと」「未来を予測してアイデアを発想すること」を挙げています。下の図表では、模倣するビジネスをきちんと「抽象化」し原理を理解したうえで自社のビジネスに適用すべきことが説明されています。

「垂直運動の模倣と横滑りの模倣」
Amazon書籍紹介ページより
https://www.amazon.co.jp/dp/B081C2CCQ8/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

2.「直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN」(佐宗邦威)

 この本では、タイトルの「直感と論理をつなぐ」思考法である「ビジョン思考」、すなわち、自分自身の直感や妄想を起点に魅力的なアイデアやソリューションを作り上げる思考法について紹介されていますが、ビジョン思考のサイクルは「①妄想する(Drive)②知覚する(Input)③組替する(Jump)④表現する(Output)」と定義されています。


DIAMONDオンライン(2019年3月29日)
「“優しい人”が「自分らしい思考」を喪失していく4つの原因」図表より
https://diamond.jp/articles/-/195880

 ③組替する(Jump)は、「組替=分解+再構築」と定義されており、主観的な構想を単なる独りよがりや思い込みで終わらせないためのプロセスです。

 「分解」は、既存のアイデアに隠れている「あたりまえ」を洗い出して、これを壊すことで思考の広がりを出す過程であり、①「あたりまえ」を洗い出す②「あたりまえ」の違和感を探る③「あたりまえ」の逆を考えてみる、という3ステップの分解メソッドが紹介されています。

 「再構築」のプロセスでは、「アナロジー」を手掛かりに発想を広げることを紹介している。アナロジーとは、既知の事柄Aと未知の事柄Bがあった時、両者のあいだの類似性Cをもとに、「Aもこういう性質を持っているだろう」と推論を働かせることです。

 アナロジーをうまく働かせるためには、「①未知の事柄について、構成要素が明確に分解されている、可視化されていること②既知の事柄の引き出しが多いこと(類似点が発見しやすい事柄を選べること)③類似点を見つけることは相違点を見つけるよりも難しいので、類似点を見つけやすくなる工夫をすること」を提唱しています。

3.「SHIFT:イノベーションの作法」(濱口秀司)

 非連続的な変化であるイノベーションが、従来の事業領域やメンバーで新たな商品・サービスを提供する「SHIFT」と、起業のような形で既存事業から離れた新規ビジネスを起こす「JUMP」に分けられ、このうちの「SHIFT」をいかに起こすかについて論じられています。いわば、企業における既存の経営資源を生かした新規事業の創出に該当する内容といえます。

 この論文では、イノベーションは、①見たこと・聞いたことがない②実行可能である③議論を生む、以上の三条件を兼ね備えたものと定義されています。そのうえで、SHIFTにつながるイノベーション発想ができる作法として、

①バイアスを構造化(可視化)する。②バイアスのパターンを壊す。③強制発想する。

以上の3つを基本プロトコル(手続き)として挙げています。

 ①バイアスの可視化は、図表のように、あるテーマについて創出した一見ランダムに見えるアイデアを2軸で振り分ける(仮想曲線ができるような2軸を特定する)ことであり、そこからトレードオフでない方向にシフトさせることで②バイアスが壊されます。そして、バイアスを壊すようなアイデアを③強制発想します。

事業構想オンライン2015年6月号
「脳のバイアスを壊せ! イノベーションを生み出す作法」図表より
」https://www.projectdesign.jp/201506/salonspeech/002183.php

4.「デザイン思考の先を行くもの」(各務太郎)

 副題である「ハーバード・デザインスクールが教える最先端の事業創造メソッド」は、個人の見立てによる未来からのバックキャスティング(未来の姿から逆算して現在を考える発想)やスペキュラティブ・デザイン(問題提起型のデザイン)に基づく構想を指しています。

 思いもよらないジャンプを生む0→1のアイデア発想法として【革新したいこと】に【異分野の専門知識】を掛け合わせることを挙げています。【革新したいこと】を持っている人は、【異分野の専門知識】をもった人々が提示する知識を、自分の専門分野の話として「見立てる」ことを行い(逆の作業も行い)、各人でアイデアを発想する、というものです。

 この作業に当てはまるものとして、以前このブログで紹介した任天堂の開発者・横井軍平氏の「枯れた技術の水平思考」を挙げています。ゲーム機を【革新したいこと】として掲げていた横井軍平氏に、電卓の液晶画面の【異分野の専門知識】を見せることで、横井氏の中に見立てを誘発することができた、と推察しています。

 

 また、0→1の発想法を一人で行う方法として、【異分野の専門知識】の代わりに「自分がパッションを持っていること」の知識を持ってくることを挙げています。情熱を持てるような好きなことであれば、もともと深い知識を持っており、今後も自発的にインプットをしていく可能性が高いため、としています。

5.「起業の科学」(田所雅之

 スタートアップ向けの書籍として、近年のものでは最も有名なものの1つではないかと思います。冒頭の章「スタートアップにとっての『良いアイデア』とは」では、良いビジネスアイデアがソリューションではなく課題にフォーカスしているものである、としたうえで、さらにスタートアップがアイデアを選ぶ時のポイントとして、「誰が聞いても良いアイデアは避ける」ことと「起業家しか知らない秘密がキーになる」ことを挙げています。

 「誰が聞いても良いアイデアは避ける」のは、そのようなアイデアには競合も参入し、大企業が参入してきた場合にはリソースの少ないスタートアップは負けてしまうためです。

 「起業家しか知らない秘密がキーになる」とは、言い換えると通例、常識と思われていることを疑うことを指します。例として、アメリカのスタートアップ企業インスタカードを挙げています。インスタカートは、ショッパーと言われる登録者(一般人)がアプリで注文した人の代わりに店に食料品や日用品を買い物に行き、45分以内に届けるというサービスを行っています。インスタカートが成功したポイントは、食料品や日用品の買い出しは自分で行うものという通例に疑問を持った視点が重要だった、としています。

 ここまで紹介してきたもの比べると多少Tips的な内容ですが、ベンチャー企業の方とお話していて「既存企業や大企業の中でどうサバイブするか」という話になることが多いので、ピックアップしてみました。

まとめ(暫定的)~生み出すプロセスを決めて、やり切ってみる

 今回は、各書籍での前後の文脈を深く紹介せずにピックアップしていますが、それぞれの手法について使うべきシーンやタイミング、目的は異なっています。ご紹介したものの中で興味を持ったものがあれば著作を当たって頂いて、読んで実践いただければと思います。

 大切なことは、できるだけプロセスを端折らずに、一通り実践してみることではないかと思います。実務の中では日々忙しく、なかなかプロセスを丁寧に押さえることは難しいと思うのですが、今回紹介した方法については、それぞれのプロセスに意味や背景があります。

 したがって、端折って良いとこ取りしようとすると、結局何も得られなかった、ということも起こりそうです。また、「何かと何かを組み合わせる」プロセスにおいても、何と何を組み合わせればよいのか、という部分がポイントになっています。

 実務において、何かアイデアを出さないといけないからとりあえず「オズボーンのチェックリスト」で強制発想だ、みたいなシーンもあると思います。アイデアの種を量産するツールとしてオズボーンのリストは有用だと思いますが、本当に大事なのは何を題材に大きくしたり小さくしたりするかであったり、生み出したアイデアの種をどうブラッシュアップするか、です。

ITmedia エンタープライズ2014年5月29日
「アイデアにつまったら、『オズボーンのチェックリスト』を試してみる」
https://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/1405/21/news022.html

 一方、プロセスの「順番」についてはあまり厳密にならなくてもいいように感じました。というのは、プロセスを一巡させても、うまくいかなければこのプロセスもう1回、といった試行錯誤は起こりうると思われるからです。テーマやタイミングに合わせて、柔軟に考えればよいのではないでしょうか。

 今回整理してみて、「ジャンプ」に至るまで、そして「ジャンプ」のあとどうするか、の重要性についても再認識しましたので、これについてはまたいつか自由研究したいと思います。

【引用文献】


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