不要不急が叫ばれる今、できること

不要不急が叫ばれる今、できること

 最近、よく耳にする言葉として「不要不急」という言葉があります。この単語、どこかで聞いたことがあるな、と思っていたのですが、かつて読んだ書籍『横井軍平ゲーム館~「世界の任天堂」を築いた発想力』(2015年、筑摩書房)に登場していました。

 この本でインタビューに答えている横井軍平氏は、元任天堂の開発部長でありアナログ玩具からゲーム&ウォッチ、ファミコンなど数多くの名作玩具を世に送り出した方です。もともと花札・トランプなどを主力商品とする玩具メーカーであった任天堂を、世界企業にした立役者の1人として知られています(今でも花札は製造しているようですが)。横井さんは、NINTENDO64が発売された1996年に任天堂を退社して独立、玩具開発会社を設立しましたが、その翌年に交通事故で惜しくも亡くなっています。

不要不急の商品のニーズを探す難しさ

 この本の中で、横井氏はご自身が開発してきた商品を、実用品として対比する存在として「不要不急の商品」と称しています。

 私がやってきたのは、娯楽品の世界です。娯楽品というのは実用品とはまるっきり違う世界です。実用品というのは、これがあると便利であるとか、ものが早くできるとか、台所用品なんか全部実用品ですね。それに対して、娯楽品は「不要不急の商品」です。つまり、必要ない、急がない。言い換えれば、どうでもいい商品です。

(中略)実用品にはニーズがあるわけです。ニーズを求めて、それに対応して商品作りをするというのが本来の姿です。それに対して、不要不急の商品のニーズとはなんでしょうか。端的に言えば「暇つぶし」です。ですから、暇つぶしのニーズを探りだすというのは、そう簡単にはいかない。

『横井軍平ゲーム館~「世界の任天堂」を築いた発想力』

 私がかつて企画に従事していた美容家電・健康家電も、冷蔵庫、洗濯機といった必需品の家電とは違い、本当に欲しいと思ってもらえないと購入してもらえない性格の商品です(もらえるなら喜んで使うけど、みたいな言われ方もよくしました)。そんな中、上司から自分たちの商品を「必欲品」と思ってもらえるように企画しよう、と発破をかけられたことを思い出します。

 この本では、横井氏が携わった様々な商品開発のエピソードとともに、横井氏が商品企画・開発を行う上でのポリシーが書かれています。「売れる商品を作るには」というタイトルの節では「本当のニーズを技術者に説明する人間の必要性」と、「枯れた技術を水平思考すること」の重要性が紹介されています。

本当のニーズを技術者に説明する人間の必要性

 まず、商品開発においては、「ユーザーが何を求めていないか」を探し出し、技術者に伝える重要性を説いています。技術者には意地があり、自分の技術でユーザーが求めている以上の機能を付け加えてしまい、そのわずかな付加(本では「技術者の遊び」と断じています)の寄せ集めで金額が高くなり、しかも使い方の分からない商品が生まれてしまう、といいます。そこで、ユーザーの本当のニーズを把握するセンスのある人、『何をはずすか』を責任を持って言える人を中心に商品企画を行うべき、としています。

 私は、創業支援などで商品企画やマーケティングについて話をする際、商品のポジショニング、競合との差別化を考える方法として「比較表」を作ることをお勧めしていますが、比較表で「自社が優れている点」の多さばかりにとらわれてしまうと、そのような「本当のニーズ」でないニーズに応えて余計な機能のついた商品が生まれてしまう危険性があります。家電製品などでの「スペック競争」は、そのような状態を生む可能性が高いと言えるでしょう。

 そのような状態に陥らないように、比較表を作る時の注意点は、ターゲットとする顧客が、商品やサービスを購入するときに本当に重要視する項目をしっかり選定して比較表を作ることです。このような購入時の重視点のことをKBF(Key Buying Factor)と呼びますが、KBFでない項目について比較しても意味はないのです。

比較表作成の注意点(筆者作図)

枯れた技術を水平思考すること

 「枯れた技術の水平思考」という言葉は、横井さんの主張し体現した哲学としてしばしば紹介されます。枯れた技術というのは一言でいえば普及した技術のことで、量産効果が働いて安くなった技術を指しています。

 本の中では、枯れた技術の1つとしてゲーム&ウオッチの液晶表示が例示されています。液晶は、もともと電卓の表示に使われ、普及したことで値段が安くなりました。ゲーム&ウオッチも、5年前であれば10万円になっていてとても売れなかったが、液晶が枯れた技術だったから安く作ることができ、ヒット商品になった、というのです。液晶を「垂直に考える」(深掘りする、という意味かと思います)と、電卓、電卓のまま終わってしまうが、そこで「水平に考える」(他の用途への活用を考える)ことで、色々なアイデアが出てくるはず、というのが、枯れた技術の水平思考です。

 この枯れた技術の水平思考は、横井氏が任天堂を離れたあとも思想としては残っており、任天堂が2007年に発売した「Wii」の開発にもつながっている、と言われています。Wiiの技術開発においては、技術のロードマップにしたがって豪華な映像を速く映し出す方向に技術を用いるのではなく、消費電力の最小化に向けられました。Wiiはインターネットと常時接続することで、最新のコンテンツを入手できるようになっているためです。一方、メモリ性能やグラフィック性能は、従来通りのスペックを踏襲したのです。(https://www.nintendo.co.jp/wii/topics/interview/vol1/index.html

 技術先行で商品開発をしていくと、技術開発の成果としての定量的な指標(〇〇万画素、〇〇㎇、〇〇GHz、etc…)の向上ばかりを追いかけてしまう誘惑に、特に技術者は駆られてしまいますが、重要なのはそうした性能がターゲットユーザーの使用シーン・ニーズに合っているか、価格が適当であるか、ということでしょう。さらに、採用する技術が本当に最新のものがふさわしいのか、ある程度開発が進んだ段階であっても、冷静に見極める必要があります。

 Wiiについては、以前もこのブログで紹介しました。Wiiは、ユーザー中心のイノベーション、技術先行のイノベーションとも違う、商品やサービスの新しい意味を見出すことで生まれるイノベーション(意味のイノベーション)によって生まれた商品として、しばしば紹介されています。

今あるもので何ができるか?から始めてみよう

 不要不急の外出が制限されている今、従来と同じ活動ができているという人はほぼいないでしょう。本当に厳しい状況ではありますが、そんな中でも新しい作品を制作しているクリエイターや、新しいプロトタイプを作っている技術者がいて、この状況に少し光が見えた頃に、素晴らしい作品や商品と出会えるのではないかと、期待しています。

 そして、もしこれから新しい何かを生み出したいと思っている方がいたら、今回ご紹介した横井さんの思想を参考に、「今持っている資源(ヒト、技術、設備etc…)で何が提供できるか?」を考えることから始めてみては、と思います。今はまさに多数の人が「暇つぶし」を求めているタイミングであり、平時(こういう言い方が適切かわかりませんが、、、)ではニーズのないと思われていた商品やサービスが求められる時になっています。従って、以前検討したことがある、という場合でも、改めてトライしてみる価値はあるかもしれません。

 現在は日々様々な主体が様々な情報や行動実態、意思を発信していますから、そういった情報の中に皆さんが応えられるものはないか?意識して情報を受け取ることから始めてみてはどうかと思います。


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