九州発「感動のあるエアライン」への期待

九州発「感動のあるエアライン」への期待

今年の5月の連休は、4年ぶりに妻の実家のある大阪に行きました(タイトル写真は、2023年5月5日関西国際空港にて筆者撮影)。大阪への帰省では、できるだけ「スターフライヤー(STARFLYER)」の便を利用するようにしています。それは、我が家ではスターフライヤーの評価が高いからです。

スターフライヤー社は2002年12月に航空運送事業への新規参入を目的として設立され、2006年3月に国内線定期便(北九州-羽田線)の運航を開始しました。北九州市に本社を置き、航空機11機を保有して国内5路線を運航しています。国内空港と釜山、台北とを結ぶ国際線は、コロナ禍の影響を受けて現在は運休となっています。

家族の評価が高い理由はそれぞれです。子どもたちは、個人用モニターがあり、飽きずに乗れることが良いようです。妻は、タリーズのコーヒーに付いてくるチョコレートが嬉しいそうです。そして私は、九州出身者として応援したいという気持ちもありますが、何より座席が気に入っています。スターフライヤーの機体では、シートの間隔が他社の標準的な間隔よりも約10cm前後広くなっています。そして、ブランドカラーである黒色で、高級感のレザーシートが採用されています。

この「ちょっとした」広さは、私自身の快適さというよりも、子どもと一緒に乗っている時の安心感につながります。小学生に入るくらいまでの子どもたちは、どうしても足をバタバタさせたりすることがありましたが、この数cmだけでも、前の人に不快な思いをさせることがだいぶ減ります。子どもたちのケアをするうえでも、少しのスペースの余裕で親の動きやすさが違います。また、黒いレザーシートは、万が一飲み物をこぼしてもシートが飲み物を吸収しない、汚れにくいという安心感もありました。

機内で提供されるコーヒーとチョコレート(筆者撮影)

最近は、他社でも座席ごとにディスプレイがある機体が増えてきましたが、機体によって設備が異なるので、前乗った時はテレビあったけど今回はないね、といった残念感を覚えることがあります。一方、スターフライヤーの機体は1種類なので、今回は黒の飛行機だからいいね、というのが子どもたちの認識にも根付いています。彼らには、黒い飛行機には良いイメージ(一貫したブランドイメージ)があるようです。

『感動のあるエアライン』という企業理念

スターフライヤーのこうしたブランドイメージは、当社の特徴ある企業理念、経営戦略から生まれているものと言えそうです。企業理念は、

私たちは、

安全運航のもと、

人とその心を大切に、

個性、創造性、ホスピタリティをもって、

『感動のあるエアライン』

であり続けます

とあります。

また、「『人』と『心』を大切にするという核を発展させ、私たちならではの輸送サービスをご提供するためには、社員一人ひとりが個性、創造性を余すことなく発揮しホスピタリティをもってお客様に接することが重要です。定められた手順や方式にとらわれるのではなく、その時々の、その場面々々でお客様が求められる、さらには望んでおられるサービスをホスピタリティをもって提供していく」という、サービスの基本姿勢も示しています。

そして、経営戦略としては、大手航空会社やLCCと異なるポジショニングで、ビジネス顧客に対するプレミアム戦略を取っており、これが支持されて業績を伸ばしてきました。冒頭で紹介した黒色のレザーシートを大手より広い間隔で配置し、コーヒーとチョコレートを無料提供するなどの独自のサービスは、このプレミアム戦略から生まれているものです。運賃は、株主であるANAとほぼ同水準です。

スターフライヤーといえば黒い機体も印象的ですが、当社ホームページの記載によると、黒は太陽光を吸収するため、精密機械の塊である航空機には適さないと、航空業界では機体カラーに黒を使うことは敬遠されていました。しかし、今までに無いエアラインを作るべく模索していた創業者が、機体カラーを黒にすることを選択し、エアバス社との安全検証を重ねて運航に問題が無いことを実証したうえで、現在まで続くスタイリッシュな機体デザインが完成したとのことです。

中期ビジョン2020の中で「強いブランド作り」のために「一貫したイメージ訴求を行う」と表明していますが、機体カラー、機内デザイン、従業員のおもてなしに至るまで、顧客とのタッチポイントで一貫したブランドイメージを提供する、というブランドマネジメントの基本に忠実な姿勢が見て取れます。

中期ビジョン2020
出典:2017年3月期決算説明会資料

また、2021年には、従来の企業理念・行動指針に加えて、「従業員と職場のあるべき姿」を明文化しています。この中で、「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」「ハラスメント行為の撲滅」「心理的安全性の確保」といった、働きやすい職場づくりのために近年重要とされる内容が盛り込まれています。

顧客満足度評価 11年連続第1位

スターフライヤーは、公益財団法人の日本生産性本部が実施する日本最大級の顧客満足度調査であるJCSI(日本版顧客満足度指数)調査で、2009年度から2019年度の11年連続、および2021年度に国内長距離交通業種、国内航空部門で第1位の顧客満足度評価を得ています。2020年度、2022年度についても第2位の評価を受けています(2020年度、2022年度の1位はスカイマーク社)

顧客満足度スコア(国内長距離交通業種)
出展:JCSI2022年度年間調査結果 業種別経年推移

JCSI調査では、顧客満足度のほか、顧客期待、知覚品質、知覚価値、ロイヤルティ、推奨意向の6項目を設定し、各項目を10点満点の複数設問で調査しています。商品・サービスを購入・利用するときの心の動きと行動を、利用前から利用後までの6つの項目でとらえ、各項目間の因果関係をモデル化しています。すべてが満点の場合を100点、すべて最低点の場合は0点として、業界や企業を多面的に評価しています。

JCSIの特長
出典:JCSI2022年度年間調査結果

ただし、11年連続第1位評価を受けていたスターフライヤーですが、2020年度から2022年度については、前年度よりも評価スコアを落としています。2020年度、2021年度についてはコロナ禍の影響があったのか他社もスコアは落ちていますが、2022年度については盛り返す競合もある中で、スターフライヤーはスコアを落とす結果となりました。

スターフライヤーの2022年度の評価を見ると、満足を構成する要因としての顧客期待は3位、知覚品質は1位、知覚価値は2位となっています。一方、2022年の1位であるスカイマーク社は顧客期待と知覚品質はともに4位ながら、知覚価値は1位となっています。つまり、スカイマークはそのコストパフォーマンスが特に高く評価された可能性が高そうです。

6指標順位表(国内長距離交通業種)
出展:JCSI2022年度年間調査結果 業種別経年推移

顧客満足度評価は、提供するサービスの変化はもとより、サービスの受け手である顧客側の状態によっても変わっていきます。冒頭にも述べた通り、個人用モニター設置など、設備の充実などサービス水準の向上への努力は競合他社でも進められています。また、この1年余りはあらゆるものの値段が上がり、消費者の価格に関する感度は高まっていると思われます。そうでなくても、消費者の嗜好は日々移り変わっていくものであり、企業は常に顧客ニーズの変化を捉えながら対応していく必要があります。

Afterコロナでの業績回復はなるか

経営の視点では、スターフライヤーは厳しい局面を幾度か迎えてきました。2009年度に初の黒字化を達成し、2011年12月には東証第二部への株式上場を果たしますが、その後、LCC(Low-cost carrier;格安航空会社)等の参入に伴う競争激化で経営が悪化し、ANAを株主とする増資を行い、2014年には経営悪化による責任として社長交代、筆頭株主であるANAから招へいした執行役員が社長に就任しています。そして、コロナ禍においては他の航空各社と同様に売上は大幅に減少しました。2020年、2022年と、相次いで社長が交代しています。

先月発表された「中期経営戦略2025」によると、北九州・福岡・山口宇部空港周辺を「ドミナント戦略エリア」 とし、旅マエ・旅アトを含めた移動の付加価値を地上交通・外部事業者と連携して提供し、当該エリアでの利便性を上げ、3空港をゲートウェイとして往復利用を促進し旅客数増へつなげる、としています。

すでに、北九州周辺の観光地まで行きやすくして魅力を高めることを目指し、JR九州の乗り放題周遊チケットをスターフライヤーの機内で限定発売したり、地元のタクシー会社である第一交通産業が北九州空港と北九州市内を結ぶ相乗りタクシーの運行を行うなどの連携が実施されています。

また、長崎県佐世保市に本社を置く株式会社ジャパネットホールディングスと、機内エンターテインメントサービス・物販事業・旅行事業における連携強化等を目的とした資本業務提携を実施しています。ちなみに、今回搭乗した機内では、ジャパネットの子会社であるBSJapanextの番組がプログラムとして提供されていました。

事業戦略(新規事業)
出典:中期経営戦略2025

一方、昨年6月に就任した町田社長は、日経産業新聞でのインタビューで、独自路線で高い顧客満足度を維持してきたことを踏まえ、創業以来の方向性は間違っていない、変えるつもりもないと語り、低価格路線と距離を置く姿勢を見せています。リストラやサービス品質の低下につながるコスト削減も否定しています。そのうえで、「スターフライヤーが11年連続で顧客満足度1位をとれたのは、常に新しいことに挑戦してきたからだ。1番であっても1番を目指す挑戦心を大切にして、他社のマネではない新しいサービスをお客様に提供できるようにしたい」と語っています。2022年度(2023年3月期)では、 2018 年度以来の最終黒字を達成しています(営業赤字と経常赤字は継続)。

今年のゴールデンウィークは、日によってはコロナ禍前の2019年を上回る国内移動(県境をまたぐ移動)の旅行者数を記録していたようです。観光業界もいよいよAfterコロナに入っていく中で、スターフライヤーが新しい挑戦を続けながら高い顧客満足度を生かして業績を回復できるのか、期待しながら注目していきたいと思います。

参考文献・URL


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