2022年度中小企業白書の注目トピック④「中小企業が対応を迫られる外部環境」

2022年度中小企業白書の注目トピック④「中小企業が対応を迫られる外部環境」

 2022年度の中小企業白書の第2章「企業の成長を促す経営力と組織」において紹介されている無形資産投資への取り組みについて紹介していく特集の最終回・第4回は、「中小企業が対応を迫られる外部環境」に関する記述に関して取り上げます。言及されているのは、「海外展開」「脱炭素化」「ビジネスと人権」です。

海外展開

 感染症の流行以降、海外への往来が制限され、海外とのビジネスが以前のように行うことが難しい状況が長期化しています。しかし、我が国の人口が減少する中で、成長を目指していく企業においては海外需要の獲得は重要であり、感染症流行以前では増加するインバウンド需要の取り込みは重要な取組でした。インバウンド需要の動向を見ると、2011年から2019年にかけて一貫して増加傾向で推移していたものの、2020年の感染症流行以降大幅に減少しており、感染症流行以前の水準まで回復するには一定程度の時間を要する状況にあります。

 足元における中小企業の海外展開の状況と今後の意向について確認すると、多くの企業において、海外展開の意向を持っていない一方で、海外展開について今後更に拡大を図る企業、今後新たに海外展開に取り組む意向である企業が一定程度存在しています。

 既に海外展開を実施している企業が最も強く感じている課題として、「販売先の確保」と回答した企業の割合が最も高くなっています。また、現在海外展開を実施していないものの、今後新たに取り組みたいと考えている企業における課題についても、「販売先の確保」の回答割合が最も高くなっています。2014年度の中小企業白書でも、海外展開における課題は今回の調査と同様に「販売先の確保」が最も重要な課題となっており、海外展開における課題は大きくは変わっていない様子がうかがえます。

 海外展開に関する環境変化として、EC(電子商取引)の市場規模が世界的に拡大しており、国境を越えた取引(越境EC)も活発になっています。特に、市場規模の大きい米国及び中国の消費者による日本の事業者からのEC購入額の推移を確認すると、いずれも年々拡大しています。

 実際に販売でECを活用している企業のうち、越境ECを利用している企業の割合を見ると、中小企業においても2016年以降増加傾向にあります。

 海外需要を取り込む上では、当面はインバウンド需要の獲得は見込みづらい状況にあるため、足元での感染症の影響などを踏まえ、実際に市場規模が拡大しつつある越境ECを含め輸出などの海外展開を検討することも必要である、と指摘しています。そして、国や公的機関の主なEC支援策として、中小企業庁の「JAPANブランド育成支援等事業」、JETROの「JAPAN MALL」などを紹介しています。

考察1.インバウンドの今後

 この2年間ゼロとなってしまったインバウンド需要ですが、ここにきて明るい兆しが見え始めています。政府は、外国人観光客の入国を6月10日から段階的に再開していくことを決定しています。直近の急速な円安進行は材料価格の高騰などで多くの産業に影響を及ぼしていますが、対ドルでは20年ぶりとなる現在の円安水準は、訪日客にとっては魅力的な材料となります。

 また、世界経済フォーラム(WEF)が発表した2021年の旅行・観光競争力ランキングでは、日本が初めて首位に立ちました。ホテルなど観光客向けインフラや観光資源の豊富さが他国より競争力を高めたと評価されたといいます。

 そして、東京都では、5月23日に認証店に対する同一グループの同一テーブルへの入店案内人数、利用者の滞在時間の制限をなくしました。徐々にではあるでしょうが、インバウンド需要の増加もあいまって、長く苦戦を強いられてきた宿泊・飲食業の需要回復が期待されます。

脱炭素化

 感染症の影響が長引く中でも、SDGsへの社会的な認知の高まりに代表されるように、グリーンや人権といった課題に対して企業も積極的に取り組む機運が高まってきています。

 脱炭素化の動きに対応し、脱炭素化に向けた計画を策定していく上では、まずは現在の自社における温室効果ガスの排出量を把握することが重要となりますが、中小企業において、自社が排出する温室効果ガスの排出量を把握している企業の割合は16.5%となっている一方で、「今後実施する予定はない」と回答した企業の割合が50%を超えており、自社の排出する温室効果ガスの排出量の把握自体が進んでいない状況が見て取れます。

 脱炭素化に向けた取組を既に実施している企業の割合は17.4%となっており、脱炭素化に向けた取組についても十分には進んでいないことが分かります。従業員規模別では、従業員規模の大きい企業ほど脱炭素化の取組を実施している企業の割合が高くなっています。

 脱炭素化に向けた取組を実施している企業の取組内容について確認すると、「エネルギー効率の高い機器・設備の導入」の回答割合が最も高くなっており、次いで「太陽光発電設備の設置」「電化の促進」「使用エネルギーの見える化」の回答割合が高くなっています。

 脱炭素化の取組を実施する予定がない企業について、どのような効果があれば脱炭素化の取組を前向きに検討するかについては、「顧客からの評価向上」の回答割合が最も高くなっており、次いで「コストカット」の回答割合が高くなっています。

 一方、既に取組を進めている企業において、脱炭素化を進めることによる効果として挙げているのは「光熱費・燃料費の低減」の割合が最も高く、次いで「市場での競争力の強化」の割合が高くなっています。前向きとなる効果として挙げられていたコスト削減や自社の企業価値を高める効果を、実際に脱炭素化の取組を行うことで感じている企業が多くいることからも、現状では脱炭素化に向けた取組を実施する予定はない企業においても、脱炭素化に向けた取組を実施していくことは有効であるといえる、と指摘しています。

考察2.カーボンニュートラルに向けた中小企業支援

 経済産業省は、カーボンニュートラルに向けた中小企業支援施策をまとめています。

https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220517002/20220517002-3.pdf

 省エネルギーに資する設備への投資に対して補助する「省エネ補助金」など既存の支援策に加えて、ものづくり補助金・事業再構築補助金において「グリーン枠」が新設されています。また、脱炭素化効果を持つ製品の生産設備や生産工程の脱炭素化に寄与する設備の導入に対して税額控除または特別償却ができる投資促進税制も新設されています。

 カーボンニュートラルに向けて、今後自動車の電動化も進みます。電動化に伴って、エンジン・給油系やトランスミッション周辺などでこれまで必要とされていた部品が不要となり、部品点数自体が大幅に減る(3万点⇒2万点)と言われます。一方、引き続き使用されるものの電動化に伴って仕様が変更になる部品や、電動化に伴って必要となる部品(電装部品等)が出てきます。

 こうした需要の変化に対応できるよう、生産(事業)転換に伴う各種経営課題を相談できる窓口を設置し、必要に応じて専門家を派遣する制度が設けられています。

人権の尊重

 2011年の国連人権理事会において支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」では、人権の尊重は、全ての企業に期待されるグローバルな行動基準であり、企業の社会的責務であるとされています。また、近年、国際社会において人権問題への関心が高まる中、日本政府は2020年11月に「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定しました。行動計画において、その規模、業種などにかかわらず日本企業に対して、人権デュー・ディリジェンス(人権DD:企業活動における人権への負の影響を特定し、それを予防、軽減させ、情報発信すること)のプロセス導入への期待を表明しており、中小企業においても今後対応が求められています。

 中小企業の企業活動における人権尊重の認識状況を従業員規模別に見ると、従業員規模が大きい企業ほど、企業活動における人権尊重を認識している割合が高くなっており、いずれの従業員規模においても7割超の企業が「認識している」と回答しています。また、従業員規模別に人権方針(人権を尊重する責任を果たす、という企業のコミットメントを示す方針)の策定状況を見ると、301人以上の企業では3割以上で既に策定している一方で、50人以下の企業においては策定している企業の割合が1割以下にとどまっています。

 従業員規模別に人権DDの実施状況を見ると、301人以上の企業では2割以上が少なくとも自社について既に実施している一方で、50人以下の企業においては1割以下にとどまっています。

 販売先からの人権尊重に関する取組の働きかけや要請の有無を、従業員規模別に見ると、301人以上の企業においては「ある」と回答した企業の割合が1割を超えているものの、実際に販売先から働きかけや要請まで受けている企業は一部の企業に限られていることが分かります。多くの企業において取引先から要請を受けていないこともあり、人権尊重に関する取組を実施する必要性に迫られておらず、人権方針の策定などに至っていないものと推察されるとしています。

 近年、欧米を中心に人権尊重を理由とする法規制の導入が進む中、企業として取組の強化が求められていることへの留意が必要であり、特に、直接・間接問わず海外との取引を行っている企業においては、海外の人権関連の動向を注視しておく必要がある、と指摘しています。


withコロナ/afterコロナカテゴリの最新記事