製品開発のアイデアの起点を「誰」に見出すのか

製品開発のアイデアの起点を「誰」に見出すのか

3月に、中小製造業の新商品開発に関するオンラインセミナーに登壇することになりました。大学院で執筆した修士論文を見て頂いて声を掛けて頂いたということでとても嬉しく思っています(令和3年3月度品川区ビジネス支援講座)。

もっとも、論文を書いていたのは2014年から2015年に掛けてで、それから大分時間が経っています。もちろん、本質的に大切なことは変わっていないと思いますし、論文では本質的なことを取り上げたと思っていますが、やはり今にアップデートするべき内容もあるはずで、そんなことを念頭に置きながら自分の論文を見直しているところです。

アイデアの起点による分類

上記の記事で紹介していますが、論文では製品開発プロセスを①製品コンセプト作成②製品の具体化・生産準備③営業・マーケティングの3つに分けて分析しました。そして、①製品コンセプト作成を行うにあたって、コンセプト作成、そのためのアイデアの起点を何に求めるかによって、その後の製品開発プロセスが変化していくことを示しました。取材した事例企業(11社)から分析したアイデアの起点は、次の4つに分類されました。

(a)経営者(従業員)自身または家族が有するニーズに特定する… 経営者・従業員もしくはその家族が欲しいと思う製品を構想し、製品化する

(b)専門家との連携・専門家への密着からニーズを探索する… 専門家(医者、芸術家の専門技術を持つ人)と密に連携して彼らのニーズを探索し、ニーズに応えるような製品を開発する

(c)取引先や外部企業のニーズに応える… 取引先からの要望や外部企業からの製品開発に関わる依頼を受け、製品開発を行う

(d)販路を有する外部企業と協業する… 販路を有する外部企業に営業・マーケティングのプロセスについて協業する

アイデアの源泉は「誰」か

この「アイデアの起点」という論点について、最近読んだ経営学者・森永泰史氏の著書「デザイン、アート、イノベーション ―経営学から見たデザイン思考、デザイン・ドリブン・イノベーション、アート思考、デザイン態度―」(2020年、同文館出版)では、補論「アイデアの源泉の整理」において、アイデア発想に用いられる概念(思考法)を、アイデアの源泉が「誰」なのかによって分類しています。

アイデアの源泉の整理
森永(2020)より著書抜粋・作成

思考法・発想法を「アイデアの源泉が誰なのか」という視点で分類しているのは初めて見たのですが、ここで、最近よく見聞きにするようになった「アート思考」が、私が分類した「経営者(従業員)自身または家族が有するニーズに特定する」に対応する思考法であることを、初めて認識しました。

「アート思考」とは

アート思考について、森永氏の著書では“現代アーティストが「これまで見たこともないもの」や「ありえないもの」を生み出すために用いているアプローチや手法、ツールなどのことを指す”という定義を紹介し、“彼ら(現代アーティスト)が「0→1」の作品を生み出すときの取り組みや発想法を、現代アーティストでない人にも使えるように再現(モデル化)したもの”としています。

また、アート思考のプロセスの根底に流れる思想は、「自分モード」と「問題提起」を重視することであるとしています。自分モードを重視することとは、社会的な動機より個人的な動機を大事にすることであり、問題提起を重視することとは、既存の価値観や常識を疑って可能性を広げることである、としています「デザイン思考」と対比すると、下図の様に整理できます。

アート思考とデザイン思考
筆者作成 ※アート思考については森永(2020)を参考

製品開発の起点と思考法の関係

さて、先ほど取り上げた「アイデアの源泉の整理」と、私が論文で分類したアイデアの起点の事例と対応させてみると、下図の様に整理することができました。

アイデアの起点と活用される思考法
森永(2020)より著書抜粋・作成

・「(a)経営者(従業員)自身または家族が有するニーズに特定する」事例では、自分のニーズに即して作りたいものを発想する「アート思考」や、自身が所属するコミュニティにおけるニーズに対応してアイデアを出す「クラウドソーシング」、また、自分の身近でいるマニアックな趣味嗜好の人のニーズに対応する「リードユーザー法」の活用が見られます。

・「(b)専門家との連携・専門家への密着からニーズを探索する」事例では、専門家という「リードユーザー」の要求にかなうことや、専門家のコミュニティに評価されるアイデアを発想・採用しています。

・「(c)取引先や外部企業のニーズに応える」事例や「(d)販路を有する外部企業と協業する」では、取引先が「こんなニーズを持っている人がいる」という情報に基づく「論理思考」(伝統的なマーケティング手法)で対応しながら、アイデアを自身(自社)の中でより明確化するために、ユーザー像をできるだけ具体的に想定する「想像イメージ型アプローチ(ペルソナ・マーケティング)」や、業界のトレンドなどに照らし合わせてみる「クラウドソーシング」を用いています。

商品開発を行うマインドセットとしてのデザイン思考

このように整理してみると、私の論文では、アイデアの起点という評価で「デザイン思考」に対応した事例は出てきていませんが、デザイン思考を導入せずとも、中小企業にとってより実行しやすい形で「あなた」を源泉としたアイデアの創出を行っている、ということでしょう。また、冒頭に紹介した以前のブログでも紹介していますが、デザイン思考のエッセンスは、商品開発を進めるうえでの基本姿勢、マインドセットとして(無意識のうちに)多くの企業で生かされています。

というのは、町工場と言われる規模の中小製造業では、商品のアイデアを出し、企画構想する場と、試作するための場=生産現場が同一の場所にあるので、メンバーによる議論・構想(協働・集合知によるアイデア創出)と試作・評価(プロトタイピイング)をどんどん繰り返すことができるからです。スピード感を持った製品開発で先行者利益を得ることも中小製造業ならではの戦略といえます。

まずは「私」か「あなた」から始めてみよう

近年、「デザイン思考」と「アート思考」の比較論(あるいは、それぞれの支持者による他方の批判)が展開されているのを見ることがありますし、「これからの時代は○○思考」のようなフレーズを見聞きすることもあります。しかし、実務においてこうした方法論を活用する立場からすると、どちらの方法論が優れているかということではなく、どうやって製品を生み出したいのか、「誰」を源泉にしたいのか、など、当事者の意識のベクトルによって選択し、トライするものであると理解すべきだと考えています。

ただ、中小製造業の製品開発において自らの企業特性を生かすなら、まずは「私」か「あなた」を源泉にするのがおすすめです。「どこかにあるかもしれない」ニーズよりは、自分が直接見聞きし確認できるところにあるニーズに対応できる製品/サービスを発想して、素早くプロトタイプを作って検証し、ダメなら次のトライをする。そんなスタイルが、中小製造業にはふさわしいと感じます。



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