「経営者の高齢化」に考えること

「経営者の高齢化」に考えること

8月後半から9月頭に掛けて、日本の2つの大企業の経営者に関するニュースが報じられました。1つは、京セラの会長・稲盛和夫氏の逝去。そしてもう1つは、日本電産の社長(COO)交代です。

稲盛氏は、私の故郷鹿児島県が生んだ偉大な経営者であり、私の実家の街にも4,000人規模の工場があって、小さい頃から京セラという名前が身近にありました。そして、私がメーカーを退社した後に経営学を学ぶようになると、京セラの創業・発展の功績のみならず、第二電電(現KDDI)創設やJAL再建、また経営者を育成する「盛和会」の活動など、稲盛氏が日本の経済界に残したあまりにも多くの功績を深く知り、さらに尊敬の念を深くしました。

日本電産は、2010年過ぎから後継者探しを本格化し、外部の後継者候補を副社長に据えたり、日産OBである吉本浩之氏、関潤氏が社長に就任していましたが、今回、永守氏とともに創業メンバーの1人である小部博志氏が就任することとなりました。今後は、内部の人材から2023年4月に副社長を5人選任し、2024年4月に小部氏の次の社長を選ぶ方針とのことです。現在、永守氏は78歳、小部氏は73歳です。

日本の経営者は高齢化している

2つの出来事が間を空かずに起きたことから、9月2日の日本経済新聞には次のようなくだりがありました。

8月24日に死去した稲盛和夫氏は、65歳で京セラの会長を退任した。73歳まで取締役に残ったが、社長は数年単位で交代する体制に切り替わった。日本電産も同様の体制を模索する。永守氏の仕事の総仕上げは、何を置いても後継者づくりだ。

2022年9月2日付日本経済新聞電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF319R60R30C22A8000000/

しかし、日本電産に見られる経営者高齢化の問題は、日本の企業に広くみられる問題です。以下、東京商工リサーチが発表している2021年「全国社長の年齢」調査では、次のような実態を明らかにしています。(https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220425_01.html)

年齢分布 最高は70代以上の32.7%

2021年の社長の平均年齢は、調査を開始した2009年以降、最高の62.77歳(前年62.49歳)だった。調査開始から毎年、平均年齢は上昇をたどり、社長の高齢化が鮮明となった。

2021年の社長の年齢分布は、70代以上の構成比が32.7%(前年31.8%)で、2019年以降、3年連続で構成比が最も高かった。50代は構成比が24.1%(同23.7%)と上昇が続くが、30代以下、40代、60代は構成比が前年を下回った。

東京商工リサーチ
2021年「全国社長の年齢」調査

このように、経営者の高齢化はマクロの規模で進行しており、世代交代の進んでいない企業が支配的であることが明らかです。

次に、社長の年齢と業績の関係については、次のような分析があります。

社長の年齢に反比例する企業業績

社長の高齢化に伴い、業績悪化が進む傾向がみられる。直近決算で減収企業は、60代で57.6%、70代以上で56.8%だった。また、赤字企業も70代以上が24.0%で最も高く、60代も23.2%だった。

直近決算で「増収」は、30代以下が47.9%で最も高かった。一方、70代以上は32.4%と最も低く、社長の高齢化に伴い増収率が下がる傾向がみられる。また、70代以上は「赤字」や「連続赤字」の構成比が最高で、社長の年齢と業績への相関関係には注意が必要だ。

東京商工リサーチ
2021年「全国社長の年齢」調査

これらの数字に統計的な有意差があるのか(「相関関係」という言葉を用いることができるのか)は気になる所ですが、一定の傾向が見える、としています。そして、休廃業企業の年齢も上昇しています。

「休廃業・解散」の平均年齢は70歳超

2021年に「休廃業・解散」した企業の社長の平均年齢は、71.00歳(前年70.23歳)と、2年連続で70代になった。生存企業の社長の平均年齢は62.77歳(前年62.49歳)で、差は8.23歳(同7.74歳)に拡大した。2021年の「休廃業・解散」は4万4,377社で、70代以上の社長が62.7%を占め、初めて6割台に乗せた。

このように社長の高齢化は事業承継の遅れだけでなく、起業数の伸び悩みとの関連もあるが、倒産や休廃業・解散にも直結しやすく、今後の動向には注目が必要だ。

東京商工リサーチ
2021年「全国社長の年齢」調査

経営者の年齢と企業の取組

経営者の年齢と企業の取組については、2021年度の中小企業白書でも紹介されています。(出典は(株)東京商工リサーチが実施した「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」)

  • 2017年から2019年の間の新事業分野への進出の状況として、経営者年齢が若い企業ほど、新事業分野進出に取り組んだ企業の割合が高くなっている。
  • 2017年から2019年の間の設備投資(維持・更新除く)の実施状況として、おおむね経営者年齢が若い企業ほど、設備投資を実施した企業の割合が高くなっている。
  • 試行錯誤(トライアンドエラー)を許容する組織風土の有無として、経営者年齢が若い企業ほど、試行錯誤(トライアンドエラー)を許容する組織風土があるとする企業の割合が高い傾向にある。

こうした調査結果を踏まえて中小企業白書では、経営者年齢が若い企業ほど新たな取組に果敢にチャレンジする企業が多い様子から、こうした取組や組織風土が売上高や利益などのパフォーマンス向上に影響している可能性が考えられる、としています。

もちろん、こうした数字は1つの傾向であり、高齢であっても優れた業績を残している経営者は多く存在します。日本電産は1997年に売上1000億円を突破し、それから17年後の2014年に売上1兆円を突破しており、このとき永守氏は70歳です。永守氏自身も、先日の社長交代の記者会見で

「(小部氏と)私は年齢が4(学)年しか違わない。外部は私のことを老害と言うが、ダイキン工業の井上礼之会長や信越化学工業の金川千尋会長、(著名投資家の)ウォーレン・バフェットのように高齢で活躍している人もいる。年齢のことをとやかくいわれる筋合いはない」

2022年9月2日付日本経済新聞電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF029JU0S2A900C2000000/

と述べています。そもそも、現在の日本の人口ピラミッドにおいて、70-74歳は2番目に人口が大きくなっています(一番多いのは45-49歳です)。高齢化社会が進む日本において、社長の高齢化が進むことは、ある意味当然の状況ともいえます。

また、近年は「多様化」が言われる時代になっています。そうした中で、世代の多様化ということについてはあまり取り上げられないような気がしますが、経営者における世代の多様化、また、職場における世代の多様化がますます話題となってくるでしょう。

経営者に「なる」気概

私は日頃、製造業(いわゆる町工場)の現場を訪問する機会がありますが、前社長が50代、60代の段階で事業を受け継ぎ、経営者としてイキイキと働いている若い社長にお会いすることがあります。社長交代の経緯は様々で、自ら勇退されたというケースもあれば、体調不調や逝去によりやむを得ず、ということもあります。

ただ、イキイキ働き、事業や従業員について熱く語る社長からは、「社長になるべくしてなったのだな」という共通の雰囲気(オーラと言ってもよいでしょう)を感じることができます。それは、仕事が好きという思いから来ていることもあれば、自身の会社に対する愛着から来ていることもありますが、そうした思いがうまく経営への情熱に繋がると、活力のある経営者としての姿に昇華しているようです(中には、仕事が好きで、ひたすら現場仕事している若社長、という方もいますが)。

「権限移譲」という言葉には、権限を上から下へ譲る、という姿を想起させます。しかし、経営者になる自覚を持った人物、経営者になるポテンシャル(活力や情熱)を感じる人物に譲りたいと思わせ、受け継ぐ流れに自然となっていくことが理想なのでは、と思います。

経営が能動的なものである以上、世代交代は「待つ」ものではなく「起こす」べきものではないかと、同世代の時期後継者の皆さんには伝えたいです。


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