11月7日、多摩美術大学環境デザイン学科の松澤研究室にお伺いして、産学共同プロジェクトProject Based Learningに取り組んでいる学生さんたちに話をする機会を頂きました。テーマは「デザイナーの皆さんに伝えたいこと」としました。企業への提案に取り組んでいる皆さんに私が体験したメーカーでの商品開発についてお話してプロジェクトの活動に生かしてもらうことはもちろんですが、将来プロのデザイナーを目指している皆さんに、デザイナーを目指す皆さんへの期待をお伝えすることが、私の思いでした。
私は、メーカー時代に一緒に仕事をしたデザイナーは基本的に美大出身者で、一緒に仕事をする中で色々な形で助けられてきました。また、ここ数年の創業スクール、起業ゼミでも、美大出身者の方に参加を頂いていますが、その後創業し、しっかり成果を出している方も少なくありません。これからデザイナーになる皆さんには、持てる力を存分に発揮して社会において大いに活躍していただきたいと思っているのです。
商品企画という仕事
まず、私が体験した商品開発が、研究所、技術、設計、製造、営業、企画、デザインといった専門部署の分業制で成り立っていて、その中での商品企画部門の役割、分業制の良さや難しさについて紹介しました。また、私は今中小製造業との仕事をしているので、中小製造業における開発体制も含めて、話を進めました。
次に、私が在職中の最大のヒット商品となった「ポケットドルツ」の開発に至るまでとか実際の開発についてお話しました。現在、私はポケットドルツを創業スクールなどで「マーケティング事例」として紹介しています。そこでまずは創業スクールで紹介しているように「ターゲット顧客を設定し、顧客のニーズを探索してコンセプトを設定し、ターゲットとコンセプトに合致する形でマーケティング戦略が設定された」ことを紹介しました。一方、当時もあんまり表立って語られることはなかった開発現場の過程にあった紆余曲折(メディア向きじゃない話)についても紹介しました。
そして当時、私がもしかするとヒット商品になるのかもしれない、と思えたのは、カラフルに塗装された試作品を見たときの、社内の人間、特に女性社員からの反応でした。コンセプトが形として結実させるのが、ものづくりにおけるデザイナーの役割で、極めて重要な役割であることは言うまでもありません。
デザインは「問題解決」してはじめて価値がある
私が今回美大生の皆さんに一番お伝えしたかったのは、私がデザイナーの方々に大いに期待しているということです。デザインには、「人をまとめる力がある」「人をつなげる力がある」と思っています。メーカー時代の商品開発では、デザイナーの描くイラストやプロトタイプによって開発メンバーの商品へのイメージが明確になり、商品開発を加速させることができました。また、良いデザインは伝播します。SNSの発達によって、拡散するようにもなってきました。そんなデザインを司ることができるデザイナーは、ビジネスの現場において人をまとめる、つなげる役割を果たすことができるはずです。
また、私がデザインマネジメントに取り組むようになってより強く感じるようになったことは、当たり前のことですが「市場に出された商品は世の中にずっと残っていく」ということです。そして、あるメーカー、あるブランドの商品として残っていくデザインの群を見て、そこに一貫した思想や感じられるとき、デザインは「経営資源」としての価値を持ち得ます。インハウスデザイナーとして仕事をする場合の難しさでもありますが、クリエイティビティを昇華させるポイントのようにも感じます。
そして、デザインは「問題解決」のためにあるので、問題解決のためには相手に理解を求める努力をする必要があります。プロフェッショナルのデザイナーであれば、時にはそのための努力(説得やプレゼンテーション)を厭わない姿勢を持つべき、という考えもお伝えしましたが、今取り組んでいる産学共同プロジェクトは、まさにその実践を行う貴重な機会になっているのだと思います。
「デザインの力」を信じて、活躍してほしい
その後のディスカッションでも、色々と印象的なやり取りがありました。SDGs、環境問題といったトピックと企業の在り方、その中でデザイナーとしてどのように社会に提案をするのか。6年前に大学院に入って、20代の学生たちと交流するようになってからずっと感じているのは、今の若い世代の皆さんは、社会課題やそれを解決するムーブメントの潮流をとてもフラットにとらえ、共感すれば自然体のままで行動したり、発信したりする人の割合が私達の頃よりも増えていることでした。私はこのことをとてもポジティブに捉えていて、それぞれが感じた通りに動いて、皆さんなりの解決策をどんどん社会に提案してほしいと思っています。特にデザイナーになる皆さんには、そこで「デザインの力」を信じ、デザインを生み出せる自らの力を出し惜しみせずに使ってほしいと思います。
今回の話がどれくらい皆さんのお役に立つかは分かりませんが、会社を辞めて6年経った今だから加えることができる視点を盛り込むことができたと思っています。今回、このような機会を与えて頂いた環境デザイン研究室の松澤先生、京野先生、山田様、熱心に聴講してくれたPBL受講生の皆さん、また、縁をつないでくださった専修大学三宅先生、本当にありがとうございました。