前々回のブログでは、高い成果を上げる組織の必要条件としての「心理的安全性」について紹介しました。「心理的安全性」が担保された環境では、「コミュニケーションの活性化」や「積極的なチャレンジ」が起こりやすく、高い成果が表れる可能性が高い、という内容でした。
ただし、こうした成果は「心理的安全性」が担保されているだけでもたらされるものでないことも、「心理的安全性」の概念を紹介したエイミー・C・エドモンドソン氏の同じ著書 (「チームが機能するとはどういうことか ― 『学習力』と『実行力』を高める実践アプローチ 」)の中で示されています。
「心理的安全」と「責任」の両立が学習する組織を作る
エドモンドソン氏によると、グループの人間関係に影響を及ぼす「環境」の構成要素として、「心理的安全」のほかに「責任」があり、この責任の高低がグループのメンバーの行動を規定します。
①心理的安全も責任も低い職場では、従業員は自分たちの仕事について無関心になりがちである。巨大で、上層部の人数が多い官僚的な組織の従業員に起こりがちな行動であり、最小限の努力で仕事をする方法を考え出してしまう。
②心理的安全は高いが責任は低い職場では、従業員は互いに楽しく仕事をし、陽気でもあるが、打ち込んで仕事をすることがほとんどない。チャレンジが生まれにくく、学習やイノベーションが発展しにくい。同族会社や政府機関の中には分類されるものがある。
③責任は高いが心理的安全は低い職場は、高い基準を設定することと良いマネジメントを混同しているマネジャーによって生み出される。仕事が明確でかつ個人プレーであるならこの方法でもうまく行くが、不確実性や共同する必要がある場合は、成功ではなく不安が生み出されてしまう。今日のペースの早い職場環境においてあちこちに存在する。
④心理的安全と責任のどちらもが高い場合は、従業員は協働しやすく、互いから学び、仕事をやり遂げることができる。今日の最も成功している企業の中には、高い責任と心理的安全を特徴とする職場環境を努力して築いている所もある。
また、ピラミッド型組織においては、地位の低い人(部下)は地位の高い人(上司、責任者)に対してはあまり心理的に安全だと思っていないことが明らかになっているため、前々回のブログで紹介しているような、リーダー(責任者)が積極的に心理的安全を確保する努力をすべきことも述べられています。
つまり、心理的な安全性を担保しつつ、メンバーに適切な責任を与えることで、組織は「学習する組織」として機能することになります。
コミュニケーションツールの活用で心理的安全性を高める
ところで、近年ビジネスチャットツール、あるいは社内SNSなどと呼ばれるコミュニケーションツールが日本でも広く使われるようになってきました。形式ばった文章でのやり取りではなくSNSのような感覚で気軽にコミュニケーションを取れること、そしてタスク管理やビデオ会議も可能なことから、多くの企業でコミュニケーションツールとして導入されています。メールでの「確認するまでに時間が空いてしまう」「かしこまった雰囲気があるので気軽に連絡できない」といった課題を解決している点も、評価されているポイントのようです。
ビジネスチャットツールはメンバー間の「オープンなコミュニケーション」を実現するため、適切に活用することで、心理的安全性を高める効果も期待できそうです。すなわち、形式ばらずに、メンバーの誰でも思ったことを書き込めるような雰囲気が醸成できれば、それが組織の心理的安全性の担保につながります。
また、会議体などのリアルなコミュニケーションでは、いわゆる「声の大きい人」、躊躇なく発言できるメンタルを持つ人が注目されたり、意見が通りやすくなったりする傾向がありますが、ビジネスチャットツールでのディスカッションであれば、声には出さなくてもきちんと意見を持っているメンバーが存在感を発揮できる可能性もあります(https://atlassian-teambook.jp/_ct/17312200)。
手段の選択もコミュニケーションのデザイン
中小企業でも、社内での連絡にSNSのグループ機能などを活用している企業は増えているようです。LINEは高い年齢層であっても使用率が高いことが知られており、比較的活用のハードルは低いものと思われます。
経営者からの情報発信において、「何を、どのように伝えるか」を熟慮することはもちろん必要ですが、「どの手段、ツールを使って伝えるか」を、伝える内容や目的によって使い分けることもまた重要であり、内容の検討もツールの検討も、「コミュニケーションのデザイン」ということができます。SNSで良いこと、直接伝える方が良いこと、メールで伝えたほうがよいこと、配布するのが良いこと、等々。適切な手段を選択できているか、情報発信する前に立ち止まって考えてみるとよいでしょう。