時に気まぐれな消費者とどう付き合い、価値を届けるか?

時に気まぐれな消費者とどう付き合い、価値を届けるか?

 新型肺炎感染拡大の影響で、マスク、消毒液などの品薄状態が定常化して久しいですが、先週の政府からの「イベント自粛要請」「休校要請」のあたりから、インスタント食品やトイレットペーパーやティッシュペーパーの品薄が起こっている、という報道を聞いて驚きました。インスタント食品については、今後外出も規制される可能性がある、また、そもそもできるだけ外出したくないという風潮によるものだと言われていますし、トイレットペーパーなどについては、マスクと同じ紙類(どうやら多くのマスクは紙類ではないようですが)がなくなるという推測や今後流通が滞るという推測によるもののようですし、SNS上でそのような流布もあったようです。

 いずれにしても、いきなり極端な動きが出てきてしまうなあと思ったのですが、この動きを見て、私は次の2つのことを思い出しました。いずれも、「人間の合理性」について考えさせられるエピソードです。

ケインズの美人投票

 経済学で有名な小論として、「ケインズの美人投票」というものがあります。ケインズという経済学者の名前をご存じでない方もいらっしゃるかもしれませんが、「公共投資によって需要を生み出して景気を刺激する」という財政政策は、ケインズの経済理論に基づいています(※ケインズ理論の真意がそこにあったかはともかく)。

 「ケインズの美人投票」は、経済学者としてだけでなく投資家としても知られていたケインズの「プロによる投資は、投票者が100枚の写真の中から最も容貌の美しい6枚を選び、その選択が投票者全体の平均的な好みに最も近かった者に賞品が与えられるという新聞投票に見立てることができる」という主張のことです。(ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』第12章より)

 ポイントは、美人投票の投票者は、「自分が最も美しいと思う写真を選ぶ」のではなく、「他の99人の投票者が好きそうな女性の写真を選ばなければならない」ことです。そして、同じことは株式投資にも言えて、自分が値上がりする銘柄に投資するのではなく、市場参加者の多くが、値上がりするであろうと判断する銘柄を選ぶことが有効な投資方法であるという主張です。

 そして、このような思考は消費行動においても現れるのでは、と思います。今回の事象でいうと、つまり、ティッシュペーパーやトイレットペーパーを求めて行列を作った人たちも、マスクがなくなるのと同じ理屈で(=使用の必要が高まって)ティッシュペーパーやトイレットペーパーがなくなると思った人はそう多くないと思います。ただ、理由はどうあれ一部の人が買い占めに走り、その結果として自分の近所で商品がなくなると思うと、並んでしまったということではないでしょうか。

手に入りにくい物は欲しくなる

 もう1つ思いだしたのが、メーカー在籍中に電動歯ブラシの商品企画をしていた頃の話です。当時、私は歯科系の学会に行ったり、歯学部の大学教授とお付き合いする機会が少なからずありました。電動歯ブラシを購入するきっかけには色々なパターンがありますが、1つの典型的なパターンが

口内のトラブルがあって歯医者に通うようになった→歯医者では「すみずみまで磨いてください」と言われるが、手で磨くと難しい、磨き残しがあると言われる→どうすればきちんと磨けるのか探していて、電動歯ブラシを見つけて使い始めた→歯医者から(歯科衛生士から)よく磨けているとほめられた→うれしい、もう電動歯ブラシ手放せない」

というものでした。電動歯ブラシの購入(特に高価格なもの)において、「歯科医の存在」は見逃せないものがあるのです。

 ある時、関西の歯科大学に訪問しました。その大学の教授が、各社の電動歯ブラシを比較研究したいので、各社に自社の商品についてプレゼンしに来てほしい、という要望を受けたためです。そして、「ポケットドルツ」の話になった際に、「あれが欲しいと思ったのは店頭で『品切れ』状態が続いていたから」と言われました。2010年に発売したポケットドルツは、確かに発売して数か月の間品薄状態にありました。商品が発売前の目論見をはるかに超えて売れてしまったためです。

 教授からは「他の商品でも同じようにすればよいのに」と言われましたが、それに対しては「欲しいと思う人が問題なく買えるように供給するのがメーカーとしての責任なので」と回答した記憶があります。また、販売店と日々対峙している営業の方は品切れについて日々苦情を言われるわけで、そのような状態は避けなければなりません。そして何より、そのような事態が起こりうるのはヒット商品になったからであって、ヒットしていない商品で同じような状況を作ろうとしても、結局貴重な販売機会をロスする以外の結果にはなりません。

 ただ、品切れ状態が続いているという評判を聞いて「なおさら欲しい」と思う消費者心理というのは、確かにあると思います。「ポケットドルツを使ってみたい」ということよりも、「手に入りにくいポケットドルツを自分は持っている」ということに価値を見出している結果です。このような現象は、マーケティングの考え方では、「バンドワゴン効果」や「スノッブ効果」として紹介されています。「バンドワゴン効果」は、「人が持っているから自分も欲しい、流行に乗り遅れたくない」と言う心理が作用して、周囲の人々の所有や利用が増えるほど、需要が増加する効果です。一方、スノッブ効果とは、「他人とは違うものが欲しい」という心理が働き、簡単に入手できないほど需要が増し、誰もが簡単に入手できるようになると需要が減少する効果です。

JMR生活総合研究所 J-marketing.net マーケティング用語集より
https://www.jmrlsi.co.jp/knowledge/yougo/my10/my1033.html

大切なのは「価値を研ぎ澄ます」こと

 商品やサービスを販売していくうえで、こうした消費者心理を勘案し、マーケティング政策を打てれば、成功の確率を高めることはできるかもしれません。ただし、消費者の購買の意思決定は様々な要因の影響を受けてなされます。また、現代は商品やサービスを認知したり実際に購入するチャネルもさまざまであり、消費者の行動をマーケティング政策で影響を与えることは、どんどん難しくなっているように思います。

 こうした中で、商品・サービスの作り手として意識するべきことは、企画を行う段階において、商品・サービスでどのような価値をお客様に届けるのか、ということをいかに精査し、研ぎ澄ます、ということだと思っています。そして、研ぎ澄ました価値をわかりやすく伝えるための政策を検討し実行することではないでしょうか。品切れしたことでさらに需要が高まるとか、流行に乗れたから売れた、といった事象は、価値ある商品・サービスを生み出すために努力した「ご褒美」として起こるかも、くらいに考えておく方がよいのではないでしょうか。タイトルに「時に気まぐれ」と書きましたが、消費者(ヒト)は、多くの場面では冷静に、自分の欲しいものについて比較衡量し、自分のニーズに合致するものを選んでいると思っているからです。


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