不確実性が高い時代のビジネスデザインのヒント

不確実性が高い時代のビジネスデザインのヒント

 以前、このブログでマーケティングの基本的な考え方としての「STP+4P分析」を紹介しました。STP+4P分析をベースとする考え方は、「STPマーケティング」と呼ばれています。

  マーケティングをテーマとして定期的にセミナーなどでお話する機会があるので、準備の際には資料をブラッシュアップするために色々な情報を集めます。その中で、従来的な「STPマーケティング」の考え方が不十分であるとして補完する(ある面では否定・批判する)考え方をレビューすることがあります。今回は、そうしたものの中から、2つの考え方を紹介したいと思います。

①「縄文型ビジネスの実践」

 「縄文型ビジネス」、最初見たときは何のことだろうと思いましたが、BBT大学で教鞭も取っているビジネスプロデューサーの谷中修吾氏の著書「最強の縄文型ビジネス~イノベーションを生み出す4つの原則」(2019年、日本経済新聞出版社)において、縄文時代の暮らし方にインスピレーションを得て、企業経営にイノベーションをもたらすフレームワークとして提案されているのが「縄文型ビジネス」です。

 この本の中で縄文型ビジネスと対比する形で紹介されるのが「弥生型ビジネス」ですが、植物、動物問わず採集経済だった縄文時代と、水稲農耕に基づく生産経済の時代では、社会を運営する考え方に大きな違いがあることを見出し、その違いを4つの視点で体系化し、そのうえで、イノベーションを生み出すためには、縄文型ビジネスの原則に基づくことが必要であることを説いています。

 弥生型ビジネスが、事前の計画や競合との差別化などの「STPマーケティング」でみられるような思考であるのに対して、縄文型ビジネスはより「直感的」に動くことが特徴とされています。ただし、図表中に「ビジネスモデルを持って」と書かれていることがポイントで、「物販モデル」「広告モデル」などのベーシックなビジネスモデルのパターンを理解したうえで、自分のアイデアにどのようにどんなビジネスモデルを(1つでなく、複数でも)組み込むかを考える必要があるとしています。

 また、「縄文型ビジネス」」と「弥生型ビジネス」の対比から、事業を生み出す(ビジネスをデザインする)技法として顧客ニーズ(社会的課題)の把握から出発して、その解決策の方向性を考える「問題解決型(コンサルタント型)」と、突き抜けたアイデアからスタートして、どうすれば顧客ニーズ(社会的課題)に紐づけるかを考える「価値創造型(イノベーター型)」が考えられ、この2つの技法を行き来しながら新しい事業を生み出すことを提唱しています。すなわち、筆者は「縄文型ビジネス」の考え方だけを使えばいい、と主張しているわけではなく、近年の企業経営の多くが「弥生型」によりすぎているので、2つの考え方を行き来することが効果的としています。

 本書には多くの魅力的な「ソーシャルイノベーター」が紹介されています。彼らは、アートやクリエイティブの領域で優れた能力を持ち、自分の突き抜けたアイデアをビジネスとして具体化しています。経営者の中には、新しいアイデアを閃くことは得意だがそれを経営に生かすことが得意でない、という方も少なくないと思います。そうした経営者にとっては、本書に紹介されている尖ったソーシャルイノベーターの実例や、「価値創造型(イノベーター型)」のビジネスデザイン技法があるということを知り、「アイデア先行でもビジネスをデザインすることができる」と認識できることに、意味があると思います。

②「エフェクチュエーション」

 「優れた業績を成し遂げた起業家たちの多数は、STPマーケティングが想定するような思考・行動のプロセスには従わない」という調査結果に基づき、不確実性の高い予測不可能な市場に対応するために、戦略的な直感の役割をとらえた理論として、バージニア大学のサラス・サラスバシー教授が提唱しているのが「エフェクチュエーション」という考え方です。エフェクチュエーションの行動原則として、次の5つが挙げられています。

①手持ちの鳥の原則=すでにある自社のリソースを生かす
②許容可能な損失の原則=どこまでの損失が許容可能かを見定めてその範囲で投資を行う
③クレイジーキルトの原則=可能なところから行動を始め、その中で結果として出来上がったネットワークの中で何ができるかを考えるようにする
※クレイジーキルト=不規則に布をぬいつけるアップリケキルト
④レモネードの原則=予期せぬ出会いを大切にし、偶然を避けるのではなく、逆に利用し尽くすことを優先する
⑤飛行中のパイロットの原則=事業機会をたぐり寄せるのは、その場その時の人間の活動 だと考え、注意と活動を怠らないようにする行動原則

宣伝会議 「マーケティング基礎 (宣伝会議マーケティング選書)」第2章より

 こうした考え方は、スタートアップ企業が事業を立ち上げる際の考え方として紹介される「リーン・スタートアップ」とも類似する考え方と言えます。私自身も創業セミナーなどでこれから事業を始めたいと思っている方に「まずは小さく始めること」「やってみて学んだこと、わかったことをもとに次のアクションを考えること」「いろんな人にビジネスアイデアを話して意見をもらうこと」などをお勧めしています。

 また、起業家が「エフェクチュエーションの行動原則」に基づくのは、ある種の必然性があるとも言えます。つまり、「じっくり計画する時間がなかった」「限られたリソースの中でできることに注力した」結果であるとも見れるからです。

 一方、大企業の新規事業の現場においてエフェクチュエーションの立場を採用するのは、実はなかなか難しい決断であると思います。例えば、手持ちの鳥の原則に基づいて「すでにある自社のリソースを生かす」ことを選びたいと思ったとき、「自社の既存事業とのシナジーがある」という見方をする人もいるでしょうが、一方で、「新規事業=既存事業とは違うこと、とにかく新しいこと」と考えている人にとっては、後ろ向きな態度に見える可能性もあります。

 したがって、エフェクチュエーションの考え方は、STPマーケティングのような「予測→計画→実行」の事業プロセスを持っている企業(主に大企業)が、その繰り返しで十分な成果を挙げられない場合に(現代ではその傾向が高まっている)、計画とは違う意思決定を行うことを支持する(正当化する)理論として活用することもできるのではないかと思います。

計画を絶対視しない姿勢

 こうした理論の実務での応用を考える上では、2つの考えをどのタイミングで行き来するのかの見極めが難しいかもしれない、という印象があります。

 また、事業計画の役割は、単に事業成功の確率を上げるということだけではなく、そもそも自分の事業の目的は何なのか、事業を通じて実現したいことは何なのか、そのためにどういう道筋を取れば良いのか、という経営者にとっての「羅針盤」の役割もあります。常に行動を先行させて行くと、行動のそもそもの目的を見失ってしまい、本来の事業目的からどんどん逸脱していくリスクがあります。その状況に経営者が満足や幸せを感じられれば構わない、とも考えられますが、いつの間にか自分がやりたいこととかけ離れていた、という事態は避けたいところです。

 そういった意味では、(精度はともかく)基本的な事業計画は持ちながら、計画を絶対視せず臨機応変に打てる手を打つことをためらわない姿勢を心がけることが重要であると思います。


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