10月25日、VALUE LABOプロジェクトのキックオフとなるデザインマネジメントセミナーを開催しました。今回は、「デザインマネジメントを活用した新規事業開発の進め方」をテーマに、デザインマネジメント専門家である草野紀親氏によるセミナーです。
冒頭、草野さんからは、「デザイン経営」という言葉が頻繁に取り上げられるようになっていることに触れるとともに、「デザイン経営」を実践するために行われていることの1つである「デザイン会社の買収」について紹介されました。デザインを大切にする経営に必要な要素は「文化形成」であるのに、買収することで本当に達成できるか、という強い危惧を感じられていることがうかがえました。
1.「デザインマネジメント」と何か
デザインマネジメントは、「デザインのマネジメント」(デザインプロセスの実行・管理、デザイン戦略の立案・実行)と「マネジメントのデザイン」(デザイン能力と創造性を高めるための人的資源管理・組織体制の構築、デザインを核に据えた経営戦略の立案・実行)の2つの側面から成り立っています。そして、デザインマネジメントの実践においては、、ビジネスにおけるあらゆる業務を「デザイン」に置き換えて実行することが必要になります。
また、デザインマネジメントにはレベルがあり、デザインマネジメントに取り組んでいる期間とレベルは比例するため、デザインマネジメントのレベルを上げるには「継続」が不可欠であること、デザインマネジメントのタイプにもいくつかあり、企業(組織)の内情や成長フェーズによって、望ましいタイプが異なることも紹介されました。
さらに、デザインマネジメントにおける経営者の心構えについて、「デザインを理解する」「デザインの価値を信じる」「デザインの限界を知る」「デザインに対する方針を明確にする」「長期的な視点でデザインに取り組む」ことが示唆されました。経営者としては、デザインマネジメントが短期的な成果を求める活動ではなく、長期的に組織に根付かせる「覚悟」を持って臨むものであるといえます。
2.デザインマネジメントが新規事業開発に有効なのはなぜか
まず、様々な「デザイン」についての紹介がありました。すなわち、会議、プロダクト、建築物、パッケージ、アパレル、店舗、日本庭園、、、デザインは「目に見えるもの」も「目に見えないもの」も行われるものである、ということです。ただ、日本では、「意匠=デザイン」として「目に見えるもの」だけがデザインされるという認識が強く、そのことが日本においてデザインが経営に十分に生かされていない原因である、との指摘がありました。
そして、経営に関わるあらゆる対象をデザインすることを意図するデザインマネジメントでは、取り扱う対象について「デザインを定義」します。これは、『「目に見えるもの(見える部分)」と「目に見えないもの(見えない部分)」の両面からコアバリュー(提供したい価値)を設定してビジネスのコンセプトを明確にする』作業ですが、これはまさに、「新規事業を開発する」のと同様のプロセスといえます。
3.デザインマネジメントを用いた新規事業開発の事例紹介
デザインマネジメントを実践して成功を収めている企業の実例として、iPhone、アウディ、スターバックスの事例が紹介されました。iPhoneを作り上げたスティーブ・ジョブズの原動力である哲学的思想、特に「禅」とのかかわりについて、また、「Appleの引き算のデザインは、人間の能力、可能性を信じているから」という考察は印象的でした。
そして、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の実現のためにはとるべき方法論が異なること、破壊的イノベーションの実現には、定義そのものを創造する「デザイン思考」を用いたアプローチが有効であることが紹介されました。草野さん自身が2つのイノベーションの実現を経験しており、説得力のある内容でした。
4.参加者とのディスカッション
当初の予定では、「デザインマネジメント 診断カルテ」に整理・記入いただき、その内容の共有・ディスカッション・講師からのフィードバックを行っていく予定でしたが、参加された皆さんとより深いコミュニケーションをとるため、参加者全員に現在の業務上の問題意識や課題感について自由にお話頂き、草野さんからコメントや提案のフィードバックを行う形で進められました。
参加者の皆さんはデザインマネジメントの理解を深めたいという意識を持って参加されていることもあり、日常業務の遂行に課題があるというよりは、メンバーはそれぞれ頑張っており、日々の業務は回っているものの、もっとレベルを上げられるのではないか、という意識を持っていらっしゃるような印象でした。個々の状況や課題に対して、草野さんからは「コミュニケーションの活性化」「インナーブランディングの強化」「デザインマネジメントのタイプを考慮する」「新規事業を成功させるための組織デザイン」など、様々なソリューション案に関するコメントがありました。
講義の中でデザインマネジメントの成立には「責任者(キーパーソン)」の存在が不可欠との指摘がありましたが、今回の参加者はみな組織においてキーパーソンとしての役割を果たしている方ばかりでしたので、本日の気づきを新規事業の推進に生かして頂くことを期待しています。
なお、本日取り上げることができなかった「デザインマネジメント診断カルテ」は、後日記入していただいたものをメールでお送りいただき、VALUE LABOチームよりフィードバックを行うこととしています。
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VALUE LABOでは、今後もデザインマネジメントに関するセミナーを定期的に開催予定です。デザインマネジメントの導入に関心がある方、事業推進の新しい方法を模索している方など、新しい価値を生み出したいと思っている方々の参加をお待ちしています!