商品やサービスの数だけ、開発ストーリーがある

商品やサービスの数だけ、開発ストーリーがある

 今週、バルミューダ社が新しいワイヤレススピーカーの発売を発表しました。

バルミューダホームページより https://www.balmuda.com/jp/speaker/

 ぱっと見の印象はスピーカーというよりランプのようですが、「今までにない音楽体験をお届けするワイヤレススピーカー」として、「360°広がる立体的で抜けるような気持ちよいサウンドと、グルーヴを増幅させる輝きでライブステージのような臨場感をつくり出す」という、他では聞いたことのない特徴を持った商品です。

 バルミューダは2003年設立の企業で、2010年に発売した扇風機「GreenFan」が大ヒット商品となり、それ以降も空調家電、調理家電の分野で次々と話題の商品を発売しているものづくりベンチャー企業です。

1つだけ異彩を放っていた空気清浄機

 私がバルミューダというメーカーについて知ったのは、今から5年ほど前のことです。当時、保育園に通う長男が喘息の発作に見舞われることが多かったので、空気清浄機を買いに量販店に出かけました。

 形状やカラーリングなり多少の差異があるものの、詰まるところどれも「立方体の箱」という印象で、正直どのメーカーのものも同じように見える中、全身真っ白いカラーリングで、タワーのような外観の空気清浄機に目が留まり、購入することにしました。完全に、見た目のみで選んだ、それがバルミューダという会社の商品でした。

 当時バルミューダというメーカーについて私は一切知らず、名前の印象からてっきり海外のメーカーだと思っていたのですが、ホームページを見たところ日本の企業と分かり、驚いた記憶があります。

 その後、企業について調べてみると、経営者である寺尾氏はもともとミュージシャンとしてメジャーデビューした経歴のある人物で、独特の哲学に基づいた商品開発を行っていることなどが分かり、当時大学院で中小製造業の商品開発について研究していた私は、大変興味を覚えました。

原体験を再現し、生活に取り入れる商品開発ストーリー

 さて、バルミューダのホームページでは、ワイヤレススピーカーの開発ストーリーが既に紹介されています。そして、バルミューダの他の商品でも、同様に開発ストーリーが紹介されています。

商品開発のストーリーは、おおよそ次のような構成になっています。

①商品開発のきっかけ・原体験

「子供の頃の夏休みに自転車で坂を下るときに全身で浴びた気持ちのいい風」「どしゃ降りのバーベキューで食べた完璧なおいしさのトースト」など、商品開発のきっかけとなったエピソードが語られています。

②原体験を再現するための技術開発

 扇風機や空気清浄機であれば送風する羽根の形状やモーターの種類、回転速度などの様々な技術要素について多数の試作や組み合わせをテストしたうえで、ベストなパフォーマンスの仕様を決定していること、トースターであれば、4種類のパンそれぞれに最適な温度制御を実現するために、1000時間の焼き上げ実験を行ったことなどが紹介されています。

 バルミューダの空調家電、調理家電といった分野は、PCやIT関連商品のように性能が日々進化していくような先端技術を使っているわけではなく、いわば成熟した技術を用いています。そうした技術をどのように活用するか、またいくつかの技術要素をどのように組み合わせていかに求めるパフォーマンスを達成するかに徹底的に追及する姿勢が紹介されています。

 また、新商品のワイヤレススピーカーについても、音に合わせて表示が変わるという機能自体は、例えば30年以上前のステレオに搭載されていた「グラフィックイコライザー」(周波数ごとの音量を調整する機械)では、周波数別音量の表示に普通に採用されていた機能です。

 ただし、その機能を「楽曲のグルーヴ感を増幅」するために用い、「独自アルゴリズムにより0.004秒の速さで音を光の輝きへと変換」するほどのこだわりを持って作り込まれた商品はこれまでなかったというところに、このスピーカー独自の価値があるといえるでしょう。 

バルミューダホームページより https://www.balmuda.com/jp/speaker/

③商品の使用シーン、生活シーンを豊かにするデザイン開発、スペック開発

 もう1つバルミューダの商品を特徴づけているのが、デザインおよびスペックの開発です。ホームページで寺尾氏は「バルミューダは家電という道具を通して、心躍るような、素晴らしい体験を皆様にお届けしたいと考えている企業です」と語っていますが、「体験」を重視する思想が、デザインやスペックに落とし込まれています。

 私が購入した空気清浄機はその後新商品が発売されていますが、もともとシンプルだったデザインはさらにシンプルになり、前面は動作表示のランプがなくなってまっさらでフラットな面になっています。一方、下部には空気を吸い込む流路の穴が大きく見えており、シンプルに見えるデザインにあってひときわ印象的です。

バルミューダホームページより https://www.balmuda.com/jp/pure/

 このデザインについて、商品紹介ページでは「リビングや寝室の主役は、もちろん人であるはずです。そして普段から使う家具やベッド。同じ空間に置く家電は、むしろ存在感がない方がいいと、私たちは考えています。シンプルに、シンプルに。清潔さだけを追求しました」と書かれています。

 また、話題になったトースターに続く調理家電として発売された電子レンジでは、「キッチンを楽しくするオーブンレンジ」をうたい、特徴の1つとして、プロのミュージシャンによるアコースティックギターやドラムの生演奏をサンプリングし、操作音や調理中の効果音、そして調理が完了したときの音として採用しています。これにより、「慌ただしい朝でも、楽しい気持ちにさせる」ことを狙っています。

 こうしたデザインやスペックの設定は、商品がどのような生活シーンで使用され、そのシーンで商品がどのような経験を提供したいのか、という思想から導かれています。

以上、バルミューダの商品開発について見てきましたが、バルミューダの事例から中小企業の商品開発において学ぶべきことをいくつか挙げてみました。

バルミューダから学ぶこと①「『体験』を意識した商品コンセプトづくり」

 商品企画を行う上で最も大切な仕事は、「商品コンセプト」を設定することにあります。商品コンセプトの定義には色々ありますが、私は、商品コンセプトを開発する方法である「キーニーズ法」において紹介されている

「消費者の未充足なニーズを解決するベネフィット(提供価値)を、どのようなアイデア(技術手段)で提供するかを表現したものである」

C(コンセプト)=I(アイデア)+B(ベネフィット:~できる)

(株式会社マーケティングコンセプトハウスWebサイトより http://www.e-mch.jp/theory/technique.html#keyneeds)

という考え方を用いています。これは、商品が消費者のどんなニーズに応えるのかという命題と、そのためにどのような技術手段を採用し精査すべきかという開発目標の両方を端的に含んでいるので、特に自社の技術を使って商品開発をしたい製造業の企業にとって有用だと考えているからです。

 キーニーズ法では、消費者へのリサーチから「未充足なニーズ」を見つけることを起点として商品開発を行うことを提唱しており、未充足なニーズを持っている消費者が多いほどヒット商品となる可能性が高くなります。一方、バルミューダの商品は、消費者にもこの素晴らしい体験をしてほしい!という作り手の原体験への思いが起点になっています。その意味では、この素晴らしい体験が多くの人にとって未知でかつ魅力的なものであるほど、未充足なニーズを持っている消費者の数が多くなり、ヒットにつながる可能性は高まると言えるでしょう。

 同じように、日常の中でのちょっとした体験への感度を高め、「こんな体験を自社の商品(技術)で再現できないだろうか」と考えてみることも有効ではないでしょうか。また逆に、自社の有する技術をつかった商品を開発したいと考えた時には、「自社技術を深掘りすることで提供できる多くの人にとって未知な体験(そしてできるだけ素晴らしいと思われる体験)は何だろう」と考えてみるのもよいでしょう。

バルミューダから学ぶこと②「ストーリーを意識した商品開発」

 先日のブログで、デザインシンキングのエッセンスとして「サービスやプロダクトが、ユーザーがまだ気づいていないニーズで応えるものであることを、ストーリーを作って説明する」ことを紹介しましたが、バルミューダの開発ストーリーも、提供(再現)したい体験の定義から始まり、徹底した開発によって商品として具現化する過程が描かれています。

 また、トースターの開発で1,000時間の焼き上げ実験を行ったというエピソードも、同じく先日のブログで紹介した「5,000個以上のプロトタイプを作った」ダイソンの姿勢にも通じるところがあります。

 そして、開発ストーリーは、他のメーカーの色々な商品やサービスでも紹介されています。つまり、どんな商品開発であれ、何らか開発のきっかけがあり、開発の過程にはストーリーがあるはずなのです。何を契機に商品開発を決意したのか、どんな新しい体験を提供したいと考えて開発をしたのか、商品開発の過程でどんな苦労があってどう克服したのか、そういったエピソードの1つ1つが商品への期待価値を高めたり、開発者への共感を生んで、「この商品を使ってみたい」「この商品を使って新しい体験をしてみたい」という購買意欲へとつながっていきます。

 また、開発の過程で常に、「どんな体験を提供したいか」を意識することで、商品開発の方向性がブレずに保つことができますし、それを開発メンバーで共有できれば、個々のベクトルを統一することにもつながるでしょう。

 特にものづくり企業の商品開発に参考になる事例だと思います。私も、今後も企業としての動向に注目しています。


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