11月24日に、K-NIC(Kawasaki-NEDO Innovation Center(K-NIC))様にて「経営にイノベーションを起こすヒント 小さくはじめるデザイン経営」というオンラインセミナーの講師を務めました。「デザイン経営」については、このブログでも一度紹介しています。
今回のセミナーでは、デザイン経営とは何なのか、また、企業(特に中小企業やスタートアップ企業)がデザイン経営の考え方をどのように取り入れる(小さくはじめる)ことができるのかについて、私なりの考えを提言しました。
デザイン経営って何?
「デザイン経営」については、2018年5月に経済産業省と特許庁が「『デザイン経営』宣言」を発表したことを契機に、その言葉が広く流通するようになったかと思います。
「デザイン経営」という言葉の定義については、「『デザイン経営』宣言」においては、「デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活⽤する経営」と定義され、さらに、「デザインを重要な経営資源として活⽤し、ブランド力とイノベーション力を向上させる経営の姿である」としています。
この説明を読んだとき、言いたいことは理解できるのだけれど、今一つ腑に落ちない感覚に襲われ、以降、デザイン経営をどう定義すべきなのか、どう定義すれば現場での実践につながりやすいのか、ということを考えていました。そして、今私がデザイン経営について考えている定義は
「経営におけるあらゆることがらをデザインする」
あるいは、
「経営におけるあらゆることがらをデザインしようとするマインドセット(心構え)を持つ」
というものです。やや乱暴な定義であると思われる方もいらっしゃるかもしれないのですが、デザイン経営を実践するための理解には十分ではないかと考えています。
「デザイン」するというマインドセットを持つことで経営が変わる
経営においてデザインするものと言うと、商品やパッケージ、カタログ、店頭、ロゴマークといった、有形なものについてはすぐ思いつくと思いますが、デザインできるものはそれだけではありません。
サービスのあり方、ビジネスモデル、ブランドづくり、部署やプロジェクトチームの組織など、ビジネスには様々な無形なものがありこれらもまたデザインの対象となります。
そして、ビジネスにおける「デザイン」を行う上でベースとすべきが、デザイナーのものの見方や考え方を、ビジネスにおける意思決定に活用できるようにした思考法であり、マインドセットである「デザイン思考」です。
この日のセミナーでは、デザイン思考について次のような定義を紹介しました。
1.オブザベーション(観察):強い仮説にとらわれず「無意識の声」を聞く。主観的に感じてインサイト(気づき)を得る。質的な活動を重視。
2.アイディエーション(アイデア創出):ブレインストーミングなどを活用し、チームが協働することによって生み出される「集合知」を重視。
3.プロトタイピング:短時間に多くのアイディアを試し改良する活動。頭だけではなく、手で考える、体で考える。
前野隆司編著『システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」 』(2014年、日経BP社)より
また、以前このブログでも紹介したことがある「ダブルダイヤモンド」を紹介しました。ダブルダイヤモンドモデルは、デザイン思考の「”課題を見つける”/”解決策を見つける”の2つのフェーズを踏む」という特徴と、「それぞれのフェーズで発散と収束を行う」という特徴を表現したものです。
デザイン経営の考え方を小さく試してみよう
このあと、デザイン経営の考え方を活用した「商品・サービスづくり」および「ブランドづくり」を小さく実践する方法について提案しました。
商品・サービスづくりについては、デザイン思考の考え方に基づいて「①ユーザーのことを徹底的に知る②ブレインストーミングでアイデアをブラッシュアップ③プロトタイプを元に議論する・顧客に問う」ことの実践をお勧めしました。
そして、これらの活動を実践しながら日常的に新しい商品アイデアを生み出し、商品化へつなげていくための社内の仕組み構築例についてもご紹介しました。日常生活の中や、取引先・お客様とのやり取りの中に、新しい商品アイデアのヒントを見出すことはあると思います。そういうヒントを取り逃さないよう、アイデアネタをストックするデータベースを作っておき、定期的にメンバーで確認し、良いものをさらにブラッシュアップして、商品化に繋げようとする仕組みで、私が支援の中で実際に提案し、実践いただいているものです。
ブランドづくりについては、同様に「①自社の経営理念を(今一度)確認する②ブランド(商品・サービス)で打ち出したいメッセージを決める③社内・社外に同じメッセージを伝える」ことの実践をお勧めしました。特にVALUE LABOチームとして企業支援を行う上で、ブランドづくりをしたい企業に大切なことは、まず企業としての理念を従業員で再確認することの重要性です。というのは、ブランドを作り、顧客や社会に届けるのは従業員ひとりひとりだからです。
こうした認識のもとに、VALUE LABOチームで実践している「Webから始めるブランドづくり」の事例も紹介しました。これは、ブランドづくりを進めたいという企業に対して、事業環境分析や経営者や従業員の将来への思い・展望を把握して経営方針・企業理念の策定を行い、そのうえで企業ホームページを制作し、さらにその素材を使って他媒体の制作を進める、というものです。
ブレインストーミングの効果を上げるために
さて、聴講者の方からの質問にもお答えしましたが、質問の1つに「販促のアイデアなどをブレインストーミングする際に、自由にアイデアが出せるためのルールは守っているつもりだが、あまり新しいアイデアが出ない」ことへの対応についての質問がありました。
これに対して、私からは
①いきなりブレインストーミングするよりも、ネタとなりそうな材料を事前に(普段から)集めたり、事前に少しネタを考えておくこと。
②用意する材料は、競合企業のネタ、業界内のネタなどではなく、できるだけ自社と関係のない業界、離れた業種・業界のネタなども用意するようにすること。
の2点をお答えしました。
①については、仕事中にふと「これからブレインストーミングするぞ」と上司に言われ、みんなで机囲んで考えたもののいま1つアイデアがでなかった、という経験をお持ちの方がいるのではないでしょうか。このようなやり方でアイデアが出る確率は、残念ながら高くないと思いますので、相応の準備、助走も必要かと思います。さらに、前段で紹介したアイデアをストックする仕組みを作ることも効果的でしょう。
②については、以前このブログで、早稲田大学井上達彦教授の「良い模倣=異国・異業種のビジネスを抽象化してビジネスモデルの型を理解し、自社のビジネスに適用すること」がビジネスモデルの飛躍に有効であるという論を紹介したことがありますが、「できるだけ遠くのビジネスの発想を持ってくる」ことは、ビジネスアイデアの創出においてもよい起爆剤になりうると思います。
デザイン経営の概念については、「『デザイン経営』宣言」以降少しずつ広がりを見せていると思うのですが、紹介されている実践事例はまだまだ少ない状態です。今後、VALUE LABOの活動を通して、そうした事例を創出し紹介していけるようにしていきたいと思っています。自社での実践を支援してほしい、一度相談してみたいという企業の方がいらっしゃいましたら、「お問い合わせ」よりお気軽にご連絡いただければと思います。